第42話 よくあるヤンキーの恋バナじゃねーか!
的確な意見を貰うため、陣内に詳しい事情を話す。
「へぇー、運命じゃん。付き合っちゃえば?」
「うん、今の話聞いてた?」
「聞いてたけど……
いや、だーはっは、じゃ無いんだよ。やめて、すげーダメージだからやめて。
「そうだとしても、俺が石原を好きなんだから、しょうがないだろ」
「そりゃそうだろうけど……そもそも何で石原さん好きになったわけ?」
「話せば長くなるぜ」
「あーうん、聞いたげるよ。凄い言いたそうだし」
「そう、あれは今年の二月一日」
「一年の時か。喧嘩やめる前だね?」
「そうだな。実際石原に初めて会った時も、俺はチンピラ達をボコボコに返り討ちにしたところだった」
あの日は朝からムシャクシャしていた。なんせ初恋が終わった翌日だ。恋愛もまともにした事の無いピュアッピュアなハートがスダボロである分、十人ほどに売られた喧嘩でも、相手をズタボロにしなければならない使命感があった。
「それ、八つ当たりだね」
「黙らっしゃい、後々反省シーンとかあるから」
「反省シーンって何」
話を戻そう。
十人くらいはいたが、持ち前の喧嘩スキルで何とかする俺。
けどいくつか拳をもらったもんだから、河川敷の草場で寝て回復しようとした。
そんな時だった。寝てる俺の顔に何か冷たいもので触れた奴がいたのだ。
新手かと思って起き上がると、そこにいたのは遥さんだった。
濡らした自分のハンカチで俺の傷の汚れを拭こうとしてくれていた。
今思えば、何だこの天使と思っていたはずだが、その時は、急に触ってきた変な奴と思ったわけで、ちょっと惚けていると、女の子は告げた。
『まだ、途中』
『え、あ、あぁ』
有無を言わさせない強さがあったね。
俺は何故か正座して目の前の、か弱そうな女の子の精一杯の手当てを受けた。
『あ、ありがとよ。でも何で手当てなんか』
『苦しそうだった』
『傷が?』
尋ねると首を横に数度振る女の子。いつも通りの喧嘩のはずだった。
けど、俺の喧嘩って相手との力比べが楽しいのと、売られた喧嘩を返り討ちにしてやった達成感を持ってこそやってたわけで、自分のムシャクシャを誰かにぶつけるのは漢としてダセぇ。けど、殴り終えた俺はまさにそんなダセぇ奴だった。でも目の前の女の子がそんな俺に対しても、懸命に手当てしてくれたのが、酷く身に沁みた。
『ありがとよ。もう大丈夫だ』
『はい』
柔和な笑みを浮かべる女の子は同じ制服だった。
『悪い、手間とらせたな。俺は妻夫木。多分同じ平成高校だろ?』
『知ってる』
『知ってるって俺を?』
『はい』
『知っててよく近づいたな。いい噂聞かないだろ?』
『……はい』
困ったような笑い方をされてしまった。まぁ実際のところ褒められた学校生活はしてない。この頃は学校にいてもビビられるだけで、正直行く意味みたいなの分かんねーし。
一人自嘲していると、女の子は、慈愛に満ちた優しい笑顔をこちらに見せる。
『苦しんでる人がいたら、迷わず助けられる人でいたいから』
……今まで会った女の子で、こんな綺麗な事を、こんなに優しく、これほど素直なまでに言える女の子はいただろうか、いや、いない。
俺自身、直情的な感情に対しては結構敏感なところがある。
だから、恥ずかしがらずにそんな風に言ってみせるこの子が、本当に天使なんじゃないかって思えた。
『あ、もう行く』
女の子がとててと河川敷を離れようとするもんだから、完全に思考停止状態だった俺は、大声で叫ぶ。
『ありがとう! お前、名前は!?』
すると、女の子は振り返り、びっくりしたような顔をしてから、綺麗な可愛らしい声を目一杯張り上げた。
『石原遥!』
……今思い出しても、なんて身に沁みた優しい時間だったろう。
はぁー、遥さんマジエンジェル。
「え! 終わり?」
「は? 終わりだけど」
陣内の驚き顔に思わず返すと、陣内は目をしぱしぱさせてからため息をついた。
「チョロいなー。チョロチョロチョロリンじゃん」
「やめろ。何だその呼び方」
「いやだって、よくある不良の女の子への惚れ方だもん。つまんない」
心底時間の無駄みたいな顔しやがって。一生懸命心を込めた回想をした俺が馬鹿みたいじゃん。
「己は俺に何を求めとんじゃい」
「べっつにー」
不満タラタラなの丸分かりなんですが……。
そんな陣内の表情を見て、そういや聞いたこと無かったなと思う。
「俺の惚れた話はともかく、そういや、陣内って好きな奴とかいんの? というか好みの雄とかいるの?」
「うん、何で雄って言い換えた?」
「いや、お前人間好きになるのかなって」
「妻夫木こそ、私に何を求めてるのかな?」
あらー、怒ってらっしゃる。冗談ですよ、2割。
そんな風に思っていたら、ため息を吐いた後、陣内はニッとこっちに笑って言う。
「私はワクワクさせてくれる面白い奴が好き」
「……お笑い芸人とか?」
「そーだね。そーいう人もいいかも? でも存在がぶっ飛んでて面白いみたいな奴の方がいいなー」
何じゃそれ。そんな男、そうそういるわけねーだろ。とか思ったが、なんかニコニコして急に機嫌が良さそうになってるし、突っ込むのは野暮という事にしておこう。
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