第45話 でこぼこバカップル

 地域の自治体が集まって活動してるのは、地域センターと呼ばれる、地域住民の交流や触れ合いを目的とした施設で、その会議室の一室で活動が行われている。活動は夕方の十八時までらしいのだが、平成高校の生徒会四人で辿り着いた時間は十七時であった。

「結構時間に余裕無いけど大丈夫なのか?」

「うん、アポ取りしといたからね」

 流石、陣内じんないさん。抜け目ないのね。

「こんにちはー」

 陣内が元気よく挨拶すると、老若男女様々な方々が、挨拶を返してくれる。

 あれ、でも知ってる奴がいるんだが。

「ヒロ」

 そこにいたのはさかい浩史ひろし。かつては共に喧嘩で猛威を振るった親友マブダチである。

「ん? お、タカじゃん」

 大人に混じり明らかに異彩を放つ学ランのポンパドールヘッド。因みにあの髪型をリーゼントって間違う人多過ぎ問題。

「お前も地域に呼びかけに来てたのか?」

 尋ねると、ヒロはデレっとした顔で隣にいた、女の子にしなだれ掛かる。

「おー、トモちゃんに付いてきたんだよ。ねー、トモちゃーん!」

「ねー、ヒーくん」

 ……相変わらずラブラブなこって。

 ヒロの隣にいる女の子は、部活でも学力でも県内最強と言われる天蘭高校の生徒会の黒木くろき朋子ともこ

 こんなヤンキーにゾッコンな女の子が生徒会長で大丈夫なのかと、周りに思われてそうだけど、化け物高校の長は化け物だ。

「ん? んー? んーーー?」

 ヒロが突然俺の後方を見て、目をまん丸くした。

「おいおいおい、何だ何だ、タカ! いつの間にお前はハーレム無双で酒池肉林しゅちにくりんってるんだよ!?」

「してねーよ。同じ生徒会メンバーだよ」

「はぁ!? 会長さんは知ってたけどよ。他レベル高くね!?」

「言われてみれば……」

 新垣あらがきは既におっさん達の目を奪っている辺り言わずもがなだし、はるかさんはマジエンジェーだし、陣内も雰囲気美人みたいなとこある。顔は好み分かれるかもだけど。

「……ヒーくん?」

 地の底から這い出た魔の者のような声がすぐ近くからした。というかヒロの隣である。

「あ、違う、違うぞ! トモちゃんがナンバーワンだ!! 俺にはトモちゃんしか見えないから!! 目奪われっぱなしだから!! もうマジ目ん玉えぐるレベル!!」

「物理的に目を奪われてどうする」

 彼女へのあまりの必死な弁明に思わず笑うと、ヒロは話を逸らそうと、話題を変える。

「あー、えっとな。取り敢えず地域の人達への呼びかけと、生徒の帰宅時間の見回りも協力してくれるってよ」

「もうそこまで話詰めてるのか、流石だな、黒木さん」

「わーい、タカくんに褒められたー!」

 両手を万歳して喜ぶ黒木会長。すると、何故か凄い勢いで胸ぐらを掴まれる。

「許すまじィ!! 俺を差し置いてトモちゃんに褒められるタカ許すまじィ!!」

「ハイハイ、安心しろ。トモちゃんに最も相応しいのはヒロだから」

「そ、そうかーー? まぁ知ってたけどよぉー!」

 何デレッデレしてんだ、扇山中の蹴り帝なんてご大層な肩書き持ってたくせに、今や女の子に骨抜きになってる腑抜けか。恥ずかしい猫撫で声みたいなの出しやがって。悲しいもんだぜ。

孝宏たかひろくん」

「おぅおぅおぅ!? ど、どうした!?」

 びっくりしたー!! 急に天使に話しかけられたのかと勘違いしたぜぇ……ビビったー。

 俺の心臓がマシンガンばりに音を刻んでいると、ヒロから何とも言えないものを見る顔をされていた。

「タカ、何で今求愛するアザラシみたいな声出したんだ?」

「出してねぇから」

 出してないもん……。出してないよね。あ、遥さんちょっと顔を背けとる。笑ってるよね。笑われてますよね。何これ辛い。

 そんなやり取りの中、陣内がこちらまで来て、黒木会長まで挨拶をしに来る。

「黒木会長。お久しぶりです」

「これは、陣内会長。お久しぶりです」

 黒木さんの佇まいが、彼氏大好きキャピキャピモードから、全てを魅了してみせる不敵な妖艶モードへと切り替わる。これいつ見てもハムスターからメスのチーターぐらいの差があるので、見ててビビる。

「不審者について何かご存知な事はありますか? こちらの女子生徒はつけられてる気がするだけにとどまっているみたいですが、そちらは実害が出てると聞いています」

「こちらは、男子生徒一人、女子生徒一人が、怪我を負わされています。早急に被害を止めたいところですね」

 要点のみによる黒木会長の問いに、陣内が事務的な答えを出した。

「へー、男子もやられたのかよ。ったく、そいつもボコり返せよな」

「悪かったな、ボコり返せなくてよ」

 ヒロの呆れた声に返すと、パチパチと何度か瞬きの後、ヒロは尋ね返す。

「え、何? やられたのお前なわけ? ぷー、だっさ」

「私を、庇ってくれたから」

 ヒロが茶化してきたのだが、遥さんがスッと前に出て訴えかけた。

 遥さんの強い瞳に、ヒロはふーんと頷く。

「なるほどね。タカが女の子守って喧嘩しないのを逆手に取って。相手がボコってきたわけだ。正解?」

「まぁ守りきれたかどうかは微妙だけど、概ねそんな感じ」

「じゃあ相手がどんな奴だったか知ってんだろ。情報共有といこうぜ」

「そうですね、タカくん、教えてもらえますか?」

 妖艶モードの黒木さんに優しく微笑みかけられると、ようこんな女をヒロのやつは落としたよなーなんて思いながら、俺は赤ピアスについて知ってる事を、地域センターの大人の人達も含めて周知させるのであった。

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