第40話 立つお嬢、跡を濁しまくり。

 堅苦しい話も終わり、昼食に移る俺含めた生徒会面々。まぁ、俺食うもの無いんですが。

「あれ、ブッキー輩お昼は?」

 既に教室で飯を食べてきているのであろう前の席の柴咲しばさきが、ノートPCを起動させながら尋ねてくる。

「なんか新垣あらがきが作り過ぎた弁当を分けてくれるんだってよ」

「え、カツアゲ?」

「違うから。残飯処理って言ってくれる?」

「キメ顔で最低なんですけどこの人」

 あれ、俺表現間違えたか? 日本語って難しいよね☆

「寧ろほどこしと言えるのでは?」

「俺は乞食こじきかよ」

「それな」

「それなじゃねぇよ」

 柴咲の真顔のそれなは、完全同意っぽいよね。そうかそうか、柴咲の中で俺は乞食的立ち位置なのか。なるほど、なるほど、そう思えば、俺に対する罵倒も納得が……いくわけねぇだろ。このアマいつかマジ泣かす。

「うわぁ、新垣さんの料理凄いね」

 昂輝こうきからの感嘆の声が近くで聞けた。新垣があの凄い弁当を広げたようだ。

「これ新垣さんが作ったの? 凄いねぇ」

 陣内じんないも一緒になって驚きの声、俺は疑ってるけどな。本当はシェフに作らせてる説を推すね。

 隣の席の新垣に白い目を向けていると、微笑みを浮かべてきおった。獲物を前にした鷹みたいなとこある。

「はい、妻夫木つまぶきくん。あーんしますか?」

「え、箸ないのか? 自分で食いたいんだけど」

「ここまでして、真顔でそれ言われる女子の気持ちとか考えた事あります?」

「さぁ、俺男子だし」

「ふふっ、妻夫木くんたら面白ーい」

 割り箸を俺の手の甲に笑顔でグリグリと突き刺そうとするのはやめてほしい。痛い。

「にしても相変わらず美味そうだな」

 しょうが焼きに、レンコンの肉詰め、ピーマン、キャベツ、人参の野菜炒め、ツナを混ぜた炒り卵。相変わらずラインナップが俺的に素敵。

「えぇ、腕によりをかけましたから」

 普通に褒められて少し機嫌がいい新垣さん。ずっとそういう顔してればいいものを。

「え、相変わらず? 孝宏たかひろって学食多いのに、新垣さんのお弁当ちゃんと見たことあるの?」

「え、あぁ、ほら、噂に聞いてたし」

 土曜日に食った弁当の話なんてしたら、絶対柴咲あたりがめんどくさい反応するし、はるかさんに新垣と土曜日に一緒に仲良く飯食ってたみたいに思われるのも嫌だし、誤魔化そう。

「妻夫木くんは食べた事もありますからね」

「ハハッだよな。そうなるわ」

 俺が誤魔化そうにもクソもこいつが認めるに決まってたわ。

 だって新垣さん、俺を落とすのに躍起になってるもの。外堀を埋めるのに今少しずつ力入れてるもん。生徒会に入った理由もさっきのは建前で、実際は俺を全力で自分のものにしようってのが理由だもん。

 いや、流石にそこまで考えるのは自惚れなのか? てゆうか自惚れであってほしいのだが。

「えぇー!? 何? 買い物だけじゃなくて一緒にご飯食べたんですか?」

「実は孝宏と新垣さんって付き合ってるとか?」

 柴咲と昂輝が超速反応するのを見て、新垣はふっと優しく見える笑顔を浮かべた。

「まさか、そんなわけないじゃないですか。ただ一緒に私の作った昼食を取っただけですよ」

 こ、このアマ言いおったぁ……は、遥さんは?

 反応をうかがうが、本人は自分の弁当に手をつけず、どこか所在無さげに俯いている。そんな姿も可憐だけども! このままだとまずい臭いがプンップンするぜェ!

 最善策を導き出せ! 妻夫木つまぶき孝宏たかひろ! 新垣ゆかなと俺とでは徹底的に仲良くなりようがない事実を示せばいいのだ!!

「でもこいつ同級生のプレゼントにPS4買ったりするんだぜ!? もう本当意味不明な金銭感覚でビビるわー」

「同級生って誰ですか?」

「妻夫木くんです」

「そんな高額のプレゼントまで!?」

 昂輝の驚きの顔よ。そうだよそうだよ。貰ってんの俺じゃねーか。そりゃこーなるわ。

 ってうわぁーーーー! 遥さんがなんかショック受けとる顔しとるぅー!!

 この元ヤン簡単に金で買収されてるくせに、この男どの口で女子の悪口言ってんだと思われてしまっているぅー!!

 もうあれだ。はっきり言っちまおう。そうでなければこの炎上鎮火出来ない自信がある。

「お、俺みたいなのと、お嬢様の新垣が付き合うわけねーだろ。例え仮に俺と新垣が好き合ってたとしてもお家柄状ありえねーって。なぁ?」

 何という完璧な否定理由。貧乏一般ボーイとバチクソ金持ち名家ガールとでは釣り合いが取れないという当然の発想。俺自身がこの一般感覚を持っている事を示せば、周りも少しは落ち着くはず。

 そう思った俺であったが、新垣は俺の言葉を受けても整然とした顔で受ける。

「そうですね」

 よ、よーしよし、いいぞ。それでいい。そうだよな。流石の新垣と言えど、生徒会入って直ぐこの場を荒らそうとするなんてそんな慎みのない事をするはずは。

「今は」

 ……するよ。新垣ゆかなだもん。

 最後の余計な一言を宣言後、陣内に対していつもの仮面の笑顔を向ける新垣。

 陣内は目を何度か瞬かせてから、何故か困ったような顔で笑う。

 何それ、場を荒らしてごめんなさいの意? 陣内ももうちょい治めてくれていいと思うんですがね。何笑ろとんねん……。

「孝宏くん」

「は、はいぃ!」

 何故か全くやましい事も無いのに、遥さんへの返事が大きくなってしまう俺。

「……なんでもない」

 終わった……こんな絶対なんでもあるなんでもないは見たことが無い。

 遥さんはいそいそと自分の食事に戻った。

 おのれェ! 新垣ゆかな!! まさかここまで俺の恋路を邪魔するとは、だが、俺は絶対にお前の思い通りにはならないからなァ! 

 それはそれとしてしょうが焼きお代わりください。

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