第16話 不審者に対する考察
木曜日のお昼、俺は
「石原、お昼、ちょっといいか?」
「はい」
そして、遥さんは全く淀みもせずにノータイムで返事をして弁当を持って、付いてきてくれる。KA・RE・Nだ。
「変な事があった」
学食への移動中、その日は珍しく彼女の方から口を開いた。
「変な事?」
「楽器が戻った」
「楽器が戻ったって……え、盗まれたやつが?」
「そう。しかも全部」
「今まで盗られたやつ全部がってことか、飯食べたら見に行っていい?」
コクリと頷く可憐な遥さん。
にしてもどういう事なのだろうか。俺がうろちょろしてる事に勘付いて、ストーカーがビビって全部返したとか?
だったらもう事件自体解決なのだろうか。いや、この場合結局不審者を見つけられなかったんだから迷宮入りじゃんか。
「物盗りがあっても、顧問はストーカーのこと認めなかったんだっけか?」
「……言ってない」
「え?」
「物を盗られた事は先生に言ってない。もし、見つからなかったら、ただでさえお金がかかる部活だから、管理不行き届きで廃部にされちゃうかもって」
「……そうなのか」
誰かへの相談という選択肢自体が消極的だったのはそういうことか。つまり、音楽部が顧問の先生に相談に踏み切れてないのはそういった事実も起因するわけだ。
人数が少なくなり、結果も出てるわけでもなく、必要以上に備品や設備にも金もかかる部活なんてのは、学校側からしたら、切り捨てたいものでしか無いはずだ。
あ、やばい、遥さんの表情が些か暗い。話を戻したほうがいい。
「でもわざわざ楽器返すって事はもう用済みって事だよな?」
言うと、遥さんは首を横に数度振る。
「また別のが盗まれてる。また違う子のが」
「べ、別のだと?」
やっぱりこの不審者、無差別にストーカーしてるのか? いや、でも待てよ?
「そいつどのタイミングで返したんだ? ここんとこ毎日部活後は音楽室見張ってたけど、楽器持った怪しい奴はいなかったぜ? 音楽室の鍵を借りようにも部員達が使い終わった後ならともかく、朝から部活まではいつ授業で使われてもおかしく無いんだから、無いことに気づいて騒ぎになるだろ」
「となると、休み時間。音楽室の授業が連続である日ならその間の休み時間は施錠されない。
「そんな日あるのか! 次その日があるのいつか分かるか?」
「私は顧問の先生が言ってたのを聞いたことがあるだけ。叶先生、音楽の授業の先生だから」
音楽部顧問は音楽の授業の先生だってことね。それにしても。
「なんで謝るんだ? これ完全に不審者特定のチャンスだぜ?」
「ほんと?」
遥さんの目が少し嬉しそうだったのが、こちらもたまらなく嬉しくてテンションが上がって来た。
「おうよ。じゃあ飯食ったら顧問の先生に聞きに行って、後は仕掛けだな」
「仕掛け?」
「誰かが直接見張ってたりすると、不審者の野郎気づいて来ないみたいだからさ、音楽室に監視カメラ置くんだよ。不審者が映ったら速攻確保しに行けばいいだろ?」
「で、でも監視カメラなんてどうやって」
小さく首を傾げる遥さん、めっちゃ可憐。
「今時監視カメラなんて学校にあるパソコン一つありゃあ出来るのさ」
俺はしたり顔で携帯で電話をかける。
「おー、陣内? 生徒会室の予備PC余ってる?」
『急に何? あるっちゃあるけど』
「わりぃ、貸してくれ。作戦にいるんだわ」
『いいけど、壊すなよー?』
「大丈夫大丈夫」
『軽いなー。じゃあ申請出しに生徒会寄りなよ。今日私生徒会室でご飯食べてるし』
「了解、あとで行くわ」
さて、作戦の準備は整いそうだ。にしても、今回のストーカー、行動が不自然過ぎる。わざわざ間接キスする為に楽器一々持って帰るか? その場ですりゃあいいよな? しかも見つかる危険性省みずに返してくるってのも謎だし、個人の金管楽器を選んでるわけじゃなくて、無差別に盗んでるってのも変な話だよ。
おまけに音楽部が帰るのを尾けてたり……まぁ、そんな行動の異常さが部員が辞めたくなるまでの理由になってるわけだけど。
胸をよぎる
あまり残ってないタイムリミットのせいでどこか見落としがあるのではないかと、頭を悩ませるのであった。
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