第17話 妻夫木孝宏は分かっている。
音楽部の顧問に会い、金曜の2限と3限が、音楽の授業が立て続けにある時間割である事を聞いた俺と
つまり今週チャンスがあるのはその一回。
しかもこの日にストーカーが来てくれる保証は無いときている。
さてさて、うまくいくのかどうか。
「ごめんなさい」
生徒会室へと向かう道中、後ろから急に謝られたと思って振り向くと、遥さんが辛辣そうな表情でこちらに頭を小さく下げていた。
「え、何が?」
「妻夫木くん、ずっと怖い顔してる」
「え、えぇ……」
多分元からこういう顔なんだが……。しかし、いつもより眉間にシワが寄ってたりはしたかも。
顔が怖いから謝られたのかとか思っていたら言葉には続きがあった。
「本当は音楽部のみんなでどうにかしなきゃいけなかったのに。私、廃部が怖くて先生にも言えなくて」
「あーなんだ。そんな事か。いいんだよ別に。俺らだって書記になってくれないかってお願いしてる立場なんだから、こっちもお願い一つ聞くのが道理だろ」
「生徒会の人にも迷惑になってる」
それでもなお、表情を曇らせる彼女に、俺は辿り着いた生徒会室への扉に、苦笑いで手をかけて言う。
「うーん、どうかな。まぁ、今の言葉は生徒会室出てからでも、同じ事思うか考えてからにしようぜ」
「え?」
生徒会室の扉を開けると、平成高校生徒会の面々三人が、物凄い速度で事務処理をしているところだった。
「学校への要望処理完了。副会長、昼休みだけどごめん。広報部回しといて」
「了解、あ、
「了解でーす。じゃあ、先生に決済貰ってきまーす」
「あ、孝宏と
「あー、ブッキーサボりと石原先輩だ」
「一応解決の
「本当ですかねー?」
「まぁまぁ、
「はい」
「良かった。何か困った事があったら孝宏に言ってね。孝宏が頼り無かったら僕らでもいいよ」
「おい、副会長殿辛辣過ぎるんだけどちょっと?」
どんだけ爽やかスマイルで俺disしちゃうのかしらこのヤリ○ン。
昂輝と柴咲二人はさっさと自身の目的の場所まで向かおうと生徒会室を出て行った。相変わらず俺にだけ厳しいお二人ですこと。
「君が石原さんだね。陣内です。よろしく」
気づくと陣内が俺たちの前まで歩いてきていた。
「はい、よろしく」
ポカンとした顔で握手に応じる遥さんもまた、いと可憐である。
「副会長はあぁ言ったけど、妻夫木はこんなんでもやる時はやってくれるから、安心していいと思う」
「おい、こんなんでもってなんだ。やる時はってなんだ」
俺が突っ込むと陣内はフッと破顔して握手していた右手の上に、左手を重ねた。
「また音楽部の活動出来るようになるといいね」
優しく、朗らかに、まるで嫌味のない言葉なのは、陣内恵美だからそう成せるのだと、遥さんのホッとした顔を見て思う。
俺は知っている。うちの会長は確かにちょっとクセの強いバ会長ではあるが、凄い奴だと。
「あ、そうだ。PCどうなった? ノートパソコンあんだろ?」
俺が言うとギクッと陣内の肩が上下に揺れた。え、何で?
「あー……それなんだが、ちょっとね。パソコンね。さっき貸し出しちゃった」
「……はぁ!?」
前言撤回、バカだ。やっぱりバ会長だ。
「しょ、しょうがないじゃん。部活動の年表とか急に作ることになったんで、活動記録見せろって
「マジかよ……ど、どうすんだよ。PCなきゃ簡易監視カメラ出来ないじゃねぇか」
焦っている俺に対し、陣内はニッコリと笑顔を向ける、なぜこのタイミングでこいつ笑ってんだ。ぶっとばせってか?
「という事情があったので、お願いしといた。ノートPC持ってる人に、会いに行って。てゆうか妻夫木達の場合、教室戻るだけだけど」
嫌な予感がめっちゃしている。
うちの学校で授業にノートPC持ってくるようなのが許されてるブルジョアーな奴は、俺は一人しか知らない。
「いちおー名前聞いていい?」
「うん?
……ですよねー。
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