第11話 お嬢様と女王が合体して嬢王ってとこかな?
さて、高校一年の春の回想を終えたところで目の前のクラスの女王に対して、俺はどうするのが正解だというのか。
【挨拶はとぅす作戦】は効果なしだったので、俺は新たに【仏の心作戦】を実行する。
「お、俺に何か用でもあるのですか?」
「え、用がなければ
残念さを少しだけ含ませ、それでも優しい言葉だ。あー気持ち悪……。
「あ、は、は、は、まさか、そんな事ありませんのことよ」
嫌悪感を敢えて振り払うように、明るく声を張り上げた。
すると、
「良かった、妻夫木くんとは仲良くしたいですから」
「おほー、光栄だわー」
余りにも気持ち悪くて、俺もおほーっとか言っちまったわ気持ち悪っ!
俺の言葉に、朗らかに微笑んで返した新垣。
満足したのか、掴んだ漫画を俺の手へと返し、自分の席へ戻って、周りの、もはや親衛隊とも言える彼ら、彼女らの元に戻る。
今のもどうせ、元ヤンと気軽に話してみせる私凄いアピールなのだろう。って誰が元ヤンじゃこら。
別に凄くねぇから。俺と話すの丸まった団子虫を手のひらに乗っけるくらい簡単だから。
返された漫画も、最早イライラで、内容が頭の中に入ってこない。
あの日から、関わらないと約束した
理由は知らない……じゃあ、俺の方で話さないようにすれば良いと思うかもしれないが、彼女を悪女と認識した日に恐るべき事実を知ってしまった。
俺の親父の働いてる会社、新垣の親父のやってる会社の下請け業者だったのである。
あぁ、思い出しちまった、あの情けないツラ。新垣との事の経緯を親父に話した途端、親父は顔面蒼白で、おびただしいほどの油汗を掻きながら、俺の肩をがっちり掴んで言った。
「妹と母さんを路頭に迷わせたくはないだろう?」
お前が俺脅すんかい。というか、路頭云々のとこ俺が含まれてないの何でやねん。
だが、確かにただでさえ貧乏生活で苦労してるところを、俺が意地はったせいで、更に貧乏にするのは気が引けたし、何より妹にはちゃんと大学に行って欲しい。
親父の考え過ぎなんじゃないかなんて思った事もある。
だが、新垣ゆかなという女は、自身の価値を高めるために使える武器は、効率的に使う女だ。
その結果、あれだけ人に囲まれ、彼女を
鎌瀬のやった事、やられた事、全て調べ上げた上で証拠を突きつけ、あくまで許すという体裁を周りに見せつつ、バラすという、彼女を公開処刑へと導いたのだ。
そんな鎌瀬にこれから先、この学校に居場所なんてあるはずもない。
次第にはあの場にいた鎌瀬の友達まで、鎌瀬を追い詰め始め、鎌瀬が裏でどんな言動をしていたか、ドカ盛りで有名な店の料理くらい大盤振る舞いで周りへと言いふらす。
だが、良くあるハブったり、持ち物に嫌がらせなんて、そんないじめなんてものは起きない。
その事に誰かが触れたりするのを、一年の時のクラスで聞いた事がない。
恐ろしい話だ。人一人の高校生活を、いとも簡単にその演技力で操れる女なら、俺のチンケな人生など潰す事は造作も無いんだろう。
だから、俺は何もしない。あいつに極力干渉したくない。してもきっと意味などない。
奴は女王だ。しかもお嬢様の仮面を被っている。略して嬢王。キャバ嬢の王様みたいでランク下がってる気がするのはこの際置いとこう。
あー
はぁ、遥さん、なんて今日も可憐なんだ……。
「どこ見てんの」
「遥さん……っておぁ!?
「話しかけないでください」
「え、ごめん……」
「違うよ。敬語! また忘れてるだろ!」
あ、そういう事か。そこは話しかけないでください、でしょ? って事ね。あーびっくりした。急に話しかけてくんじゃねぇとか泣きそうになるわやめろ。
「
ちゃんと小声で話して、気配りできるこうきくん16歳、でもデリカシー何処に置いてきたの?
「用が無いのに話しかける事ねーだろ」
「そう?」
「昂輝は違いそうですね」
「お、ちゃんと敬語」
「やかましわ」
「けど、いいんじゃない? 石原さんに書記やってもらうのは。部活も確か音楽部だから毎日あるわけじゃないし、
「だからさらっと俺の心を読まないでくださいまし」
「くださいましって……」
笑い堪えとるげ……。だが、昂輝と一緒に誘えば遥さんと生徒会を出来るかもしれない!! やっべ! テンション上がってきた!
「昼休み、誘おうぜ昂輝!」
「はいはい了解」
あのバ会長とクソ会計以外にようやくまともな女性が入る……そう思うと胸の鼓動が鳴り止まない俺なのであった。
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