第8話 と壊れたまーくん
初めて血の出るような殴り合い喧嘩をしたのはいつだったか。
そう、確か陸上部に入って直ぐにチンピラだった先輩に絡まれて、なんかにイラついて殴っちゃったかなんだったかのせいだったと思う。
その時つくづく喧嘩ってのはセンスとガタイだけで成り立つものだなと思ったものだ。
それなりのものを持つように産んでくれた父と母のお陰で、その日自分が並みの拳や動体視力じゃない事を知った。端的に言うと勝てたのだ。
その後、そのチンピラ先輩に勝った事が原因で飛んでくる火の粉、つまりはふっかけられた喧嘩は大体ぶん殴って勝って振り払った。
そんで付いたあだ名が。
「
「何であいつがこんなところに」
「マサさん……か、勝てますよね?」
ざわざわと六人に言われてまーくんが、何とか引きつっていた顔に笑いを取り戻す。
「はっ、勝てるぜぇ。こっちは七人だぞぉ。負ける要素がねぇ」
「よーそんだけぶっ飛んでそんな事言えるねまーくん」
「てめぇがまーくんって呼ぶな!」
はっ! 心の中でまーくん呼びになってたらいつのまにか本当に呼んどる!
「そうよ、逃げて妻夫木くん」
「何でだよ。勝てそうなのに逃げる意味が分からん」
「へへっ、さっきこいつのパンチ喰らったけどよぉ、そんな大したこと無かったぜ。貧弱だ貧弱」
「貧弱だぁー!? 新垣達から距離取ってもらう為にぶっ飛ばしただけだもんねー!! てめぇマジぶっ殺す!!」
「う、噂通り煽り耐性0だ……」
「マサさん、な、何で怒らせたんですか!? さ、さっき妻夫木ほぼ0距離からパンチ撃ってんすよ!?」
「あ、それなのにマサさんぶっ飛んでるって事は」
「「「「「あ」」」」」
「へいパァーーンチ!!(×6)」
決まった俺の必殺技、へいパンチ。相手との距離がそれなりにないと使えない。相手は死ぬ。
そして目の前にいるのは、味方全員が流麗にワンモーションで立ち上がる気を無くすほど吹っ飛んだのを間近で見ていたまーくんである。
「ねぇ、今どんな気持ち? 貧弱な奴にパシリ君達ぶっ飛ばされたのどんな気持ち?」
「うるせぇ!」
そう、バットはどんな状況でも、まずは相手の腹部を狙って横振りが基本だ。確かに縦振りで脳天付ければだいたい勝てはするが、さっきの俺みたいに組み付かれ易いし、横振りならグリップをしっかり握って振ればまず相手は、避けるか防御に入るしかない。組みつこうにもグリップ部分で横っ腹叩かれちゃうとダメージになるし。
けどまぁ……。
「俺は横振りでも関係ねぇけどな」
後ろにステップすると、振りかぶったバットは空を切り、まーくんに隙が生まれたので、やはりまた距離を詰めて深く潜り込んで低い姿勢を取る。
「はいパァーーンチ!!」
「ぁがっ!」
決まった……俺の必殺技はいパンチ。
というか殴るなんてのはダメージを取るか、敵との間合いを作る為のものかのシンプルな2種類に分けられるんじゃなかろうか。
てな訳で、終幕のようである。端的に言うと勝った。
「がっ……さっきはガチで殴ってなかったのか」
鼻血を出しながら困惑するまーくんに俺は近づきながら説明する。
「いや、ガチで距離取る為に殴ったぞ。ダメージ重視で殴ってないだけ」
「ぐっ、な、何を」
俺は倒れてるまーくんに跨り、胸ぐらを引っ掴んで凄む。
「んで? 何で新垣を襲った。金目当てじゃねーんだろ?」
「い、言うわけねーだろ。大体な。男侍らせてる女なんだからどうせヤりまくりなんだろ? 据え膳食わぬは男の恥って言葉知らねーのかぁ?」
その下卑た笑い方にイラついたのは言うまでもなくて、俺は相手の口を切るほど殴り続けた後、気づけば拳を握りしめて思いっきり振りかぶろうとしていた。
だが、歯を折ろうとする腕をガシッと強い力が止める。
「やめて……あげて」
「あん!?」
何故この状況でお前が泣いているのか。そう思ったのは、その腕を掴んだのは
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