第6話 特に理由もなくヤンキーを謎自分ルールが襲う!!

 次期生徒会長……?

 こいつ何言ってんだろう。

「今こいつ何言ってんだろうって顔してるよ、ヤンキー」

「ヤンキー相手にヤンキーって呼ぶ奴初めて見たわ……ってか人には名前呼ばせておいてヤンキーはねぇだろ」

「チンピラの方が良かった?」

「お前ぜっっったい馬鹿にしてるよな。泣かすぞ」

 わりかし本気で凄んで見せたが、陣内じんないは臆する事なく、言いのける。

「じゃあ名乗なのりなよ。自己紹介された覚えないんだから」

「はぁ? 俺の事知らねぇの?」

「名前と君の噂は知ってるけど、それは知ってるって事に私の中ではカウントしないし。君が自己紹介してくれて初めて私は君の事を知る事になるんだ。理解した?」

「そんな事言われましても、お前の中の謎自分ルールなんて知らんし……俺は妻夫木つまぶきだけど」

 そして渋々ながら答える俺。無視する事も出来たはずだが、言ってしまったのはこいつの不思議な、雰囲気のせいだろう。

「じゃあ、よろしく妻夫木。ヤンキーの知り合いは初めてだな、だーっはっは!」

 だが何だその汚い笑い方……おっさんかよ。女の子らしさ皆無。攻撃魅力0。

 ある程度緊張感を持って新垣あらがきのもとへ行こうと走る中、意味不明な発言にその緊張感も薄れてしまう。

「あれ、何の話だったか」

「次期生徒会長になるとかなんだか」

「あぁ、そうだった。10月の選挙で私は生徒会長になるから」

 ドヤ顔をかましてくる陣内。

「いや、なるからって……お前タメだろ? 1年のお前でもなれるもんなのか?」

 尋ねると息をはぁはぁ乱し始めながらも、彼女は走って答える。

「なれるだろうね。そもそも生徒会長選に立候補する者が毎年殆どいないみたいだし、今年の生徒会メンバーも、書記以外はほぼ2年で構成されている。どうゆうことか分かる?」

 隣の陣内がちょっとキツそうなので俺は走るのから早歩き程度に移行した。仕返しとばかりに馬鹿にした顔で言ってみる。

「その説明で分かると思ってるならお前は馬鹿だな」

「この説明である程度察されない妻夫木の方が馬鹿だと思う」

「誰が馬鹿だ!! 馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ!!」

「じゃあやっぱり妻夫木が馬鹿じゃないか」

「あ、ほんとだ」

 そーだよそーだよ。俺が最初に馬鹿って言ってるわ。人に馬鹿って言うことあんまりねぇから、いつもこの返しでレスバトルに勝利してきたというのに。まさかの大敗北だわ。

 俺が呆気に取られていると、早歩きで少し休んで大丈夫になったのか、また走り出す陣内。ついて行く俺に、陣内は問う。

「もし、生徒会選挙までに誰も生徒会が出たがらないとどうなると思う?」

「え、そんな事ある?」

「別に今時珍しくないぞ」

 まぁ、言われてみて、学校の事を色々と考える役回りなんて、嫌な俺にとって、なりたい奴の気持ちが分からんくらいだしな。多分大学の推薦とかで有利になるのかぐらいの認識だし。

 でもそうか、誰もやりたくないなら……。

「うーん、そうだな。先公とかが勝手に決めんのか?」

「大体合ってる。2年の成績優秀者から順番に打診していくんだってさ。生徒会やらないか? って」

「うげぇ、マジかよ。頭いい奴も大変だな……あぁ、だから生徒会が2年ばかりって事は」

「そう、1年で出たい者が去年は殆どいなかったって事。生徒会長になる事を今年狙うような野心家なら、普通は副会長以下の役職を狙って名前を覚えてもらおうとするから」

「うーんでも、それって結局予測の範疇じゃねぇのか?」

「今のところはね。でも一つだけ生徒会長になるにあたって、私は自信を持ってる事があるから」

「何だよ」

「え、教えないよ」

「な、何だそりゃ」

 ここまで話しておいてと言いかけたが、でもよく考えりゃ会って間もない俺にそこまで深い話するのも変か。

 独りでに納得したが、陣内はニッとわざと歯を見せるような笑い方で、楽しそうに答える。

「手の内は最後まで味方でも教えない主義なの」

「さっきから自分ルールのクセが強すぎる……。まぁいいや、興味ねーし。自称次期生徒会長の戯言なんてな」

「だーはっは、まー見てなって!」

 こいつ悩みとか無さそうだなーって思ってると、前方からやたら必死そうにこちらへ走ってくる、うちの女子生徒がいた。

 俺たちには目もくれず、何かから逃げるようだったが。

「……今の、よく新垣あらがきさんと一緒に帰ってる人達の1人だったね……あっちの裏路地から出てこなかった?」

「お前よく見えたな……ってそれって」

「急いだ方がいいかも」

 察した俺は裏路地の方まで思いっきり走る。すると、そこにはチンピラらしき奴ら数人に囲まれている新垣に、一緒に下校していたのであろう男子数人が倒れ込んでいる姿だった。

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