第3話 ヤンキーと罵倒少女

 普段女と喋る機会が無い俺が、新垣あらがきを全力で嫌いになったのには訳がある。

 高校の1年の春まで遡り、高校に入ったばかりでかなりツッパっていた頃の話だ。

 当時俺が学校に行こうと思ったのは、自分の校内での立ち位置や、周りの噂がどんなもんか確かめる為だった。

 学校の勉強なんてあまりしても意味がねぇし、知り合いはいても友人は殆ど居なかったから、楽しいもんでも無い。

 ロールプレイングゲームであといくつ戦いをすれば、自分のステータスがレベルアップするのかを、ゲーム内なんかの施設に行けば教えてもらえるのと同様で。

 学校に来た俺の事を怖れるなら、怖れた数や度合いを物差しとして考えられる。

 ナメられてるならその程度。俺は凄くもなんとも無い。

 だからその日も、その程度の目的しかないままに登校した。

 教室まで行こうとすれば、誰も俺と目を合わせようとしない。そんな事が、有名になったかのようで自尊心を肥大化させていく。

 そんな中聞こえてくる噂の中で、偶々俺は嫌な事を聞いてしまった。

「はー、新垣ほんとムカつくわ」

「チヤホヤされてるからって調子のってるよね」

 屋上、さらに言えば梯子を使って一番高いところに人2人分ぐらい寝転べるスペース。

 登らなければ誰がいるか分からない。俺はサボりの時よくここで寝ていたのだが、ここに誰かがいるなんて思ってないのだろう。

 女三人ほどか、屋上で新垣ゆかなの罵倒大会が始まっていた。

 新垣ゆかな、当時同じクラスである事以外に、俺が知ってることと言えば、金持ちのお嬢様、真っ金髪に金色の瞳、どこぞのゲームの坂田金時なら一発で気にいるであろうゴールデンガール。そんなもんだった。

 だが、彼女達の罵倒を聞いてみると、成績は学年でトップ5。男子からはモテまくり二日にいっぺんは告白されてる。運動神経抜群で100m走は余裕で12秒台。裁縫や料理が趣味でお嬢様のくせに自分で作ったりするのを男子にアピール。なるほど、女に嫌われそうな女だ。

 罵倒大会だけで終わればよかったのだが、どうしようもなく、笑い事にもならない犯行声明が1つ出てきたもんだから、俺は耳を疑った。

「今日ね、まーくん達に放課後あいつをちょっと懲らしめるようにお願いしてるの」

「まーくんって例の怒らせたらヤバイって噂の?」

「そーそー。ほら、うちのクラスの妻夫木つまぶきにも勝ったことあるんだって」

「うっそマジで!?」

 うっそマジで!? その情報俺知らない!! 相手になるの県内の高校生じゃさかい浩史ひろしくらいだったはずなんだが……あいつまーくんだったのかな。

 ペラペラと犯行声明を携帯を弄りながら聞いていた俺だが、どうしたもんだろう。

 別に新垣を助ける義理はないが、ただ無双してるだけの新垣の人生に一生影を落とすほどの事を聞いておいて、何もしなかったなんてのは俺のポリシーに反する。

 新垣に事前に伝えておけば対処は簡単かもしれない。

 だが、いきなりヤンキーに「今日お前イタズラされるぞ!」なんて言われたところで本人による犯行声明と捉えられ、現行犯逮捕される未来しか見えない。辛い。

 なので現在携帯で罵倒少女達の声を録音してるわけだが……うん。微妙だな。声そんなに綺麗に拾えてないし。

 うーん、現行犯逮捕は嫌だなぁ……大体、新垣が信じても周りが耳を貸すなという事態になるだろうし……。

 でも、それでも、言った方が安全に帰れるかもしれないのなら、そうするべきだ。

 罵倒少女達が教室に戻るのを見届けてから、堺浩史こと暫定まーくんに電話をかけた。

『んだよ、タカ。今絶賛スーパーファイト中なんだけど』

「なぁ、ヒロってまーくんだったの?」

『お前遂に強烈な一発でも頭にブッ込まれたん?』

 電話越しでも分かるほど、ヒロの声は俺を馬鹿にしていた。

「だよなぁ。どー考えても堺浩史くんは堺浩史くんだよな」

『こっちも暇じゃねぇ。切るぞ』

「スーパーファイトって、今日なんかあったか?」

『いや、なんか15人くらいでカチコミかけてきたから、返り討ちにしてるとこ』

「電話してるとか余裕っすね」

『こっからは俺の恐ろしさを刻んでいくタイムよ。エンペラータイム』

「はいはい、じゃあな」

 電話を切る。多分あのまま聞いてたらぎゃああ!! とか悲鳴がずっと聞こえてきただろう。怖いわーほんま。ボコボコにした後に、反抗的な奴を片っ端から更にボコボコにするのがヒロの言うエンペラータイム(笑)らしい。

 取り敢えずまーくん≠堺浩史じゃないらしいので、万が一の時の覚悟は決まった。まーあいつそんな女に酷いこととかするキャラじゃない戦闘狂くんですからノリで電話してみただけだけど。

 後は新垣に言ってやるか。取り敢えず普通に昼休みにでも誘い出せばいいだろうか。

 それまではソシャゲで周回し時間を潰すことにしたのだった。

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