第1話 元ヤンの教える正しい輩の使い方
早朝、キジ鳩の鳴き声が眠さを倍増させている気がする。
平成高校二年、
生徒会に入ってはや二週間、初めてのコーサツに、俺はあくびを挟みつつ向かっていた。
因みにコーサツってのは、生徒会長が言う校門挨拶の略らしい。ほんじゃあ妻夫木! 明日コーサツだから! なんて言われた時の俺の顔は、さぞこのバ会長何言ってんだの極みって感じだったろう。
「あ、ブッキー
「おー、朝から元気に喧嘩売ってくる後輩はお前だけだぞ
先輩から先を抜いたつまらん文字遊び。輩扱いしてくるこのクソ生意気女は
平成高校の生徒会会計一年。あ、俺これ以上の情報持ってなかった。見た目だけ言えばそこそこ持て囃されたんだろうなぁ、という容姿だ。何だそのふざけたシュシュ、剥ぎ取ってぶん投げたろかって思って早二週間ってところだ。
「だって元ヤンだし、輩は輩じゃないですか。それにあたしのが会計歴長いですし、あたしのが先輩って呼ばれていいくらいなんですけどぉ」
「2日だけじゃねぇか……」
ニヤニヤしながら尋ねてくるこのガキ……ナメられてるな。泣かせてやりたいが、そんな事をしたらバ会長が黙っちゃいないだろう。大人になれ、
「ハハッ、遠慮しとくわ」
「引きつり笑いに青筋立ってますけど。輩さんマジ輩」
「このアマ犯したろか……」
肩をがっしり掴んで凄んで見せたが、柴咲は演技めいたような怖がり方を見せた。
「キャーッ、おーかーさーれーるー」
「住宅街だからって、ちゃんと小声で言ってくれる優しさはなんなんだお前」
「だーってブッキー輩が捕まって生徒会出れなくなったら、会計のあたしの仕事二倍じゃないですか。馬鹿ですか?」
ハァーーーッ、嫌い。本当こいつ生徒会じゃなかったら絶対馴れ合わない。マジで。
何その馬鹿を馬鹿にするような馬鹿っぽい顔、馬鹿馬鹿しい程、馬鹿にしすぎてて、馬鹿のバーゲンセール顔と名付けていいなこれ。
「ったく、本当何で生徒会なんて入っちまったのか」
思わず愚痴をこぼすと、柴咲はケタケタ笑いながら、両手を後ろで組んで腰を落とす。
「本当ですよ。元ヤンの癖に会計やるってどんな気持ち?」
「は? お前会長から聞いてねーの?」
「会長が? 何で?」
柴咲の演技はさっきの大根役者っぷりを見ているので、この反応はマジなやつなのだろう。
……あいつ、約束通りマジで言ってなかったのかよ。
「別に、お前んとこのバ会長に誘われただけだっつの」
「いやでも輩ってる時に誘われて普通受けます?」
「輩ってるってなんだよ。お前輩輩言うけど、本来輩ってチンピラとかそういう悪い意味の言葉じゃねーからな」
「あ、かーいちょー!」
聞いてねぇし、柴咲は校門まであと数百mというところで歩く女に話しかける。
「お、柴咲、今日も元気に会計やってる?」
「まだ今日始まったばっかなんですけど」
「ややっ、確かに、じゃあ今日も一日元気に会計ってこう!」
「お前らは名詞を動詞にしなきゃ生きていけねーのか」
「ん? おぉ、妻夫木か。ちゃんと来れたな感心感心」
こちらの声に対して満面の笑みを向けて頷く女。
「そりゃ生徒会長殿に呼ばれたら来るしかねーわな」
「いや、朝早く起きれてる事実に感心してる」
「そこからかよ!」
「だーはっはっ! 朝からそんなに通った声を出せるならコーサツも余裕だな」
「へいへい」
ニッと笑いかけた顔。わりかし好みの顔である為、極めて平静を装う為に目線を下げながら答える。
そりゃ、こんなやりとりばっか生徒会でやってるもんだから、柴咲にコケにされるのも無理はないか。
にしても、相変わらずおっさんみたいな笑い方のせいで女としては本当こいつ死んでんじゃないかなってわりかし思う。
「そーだ。会長。次の書記決まりましたぁ? もーあたし議事録まとめとか本当疲れちゃうんですけど」
「お前殆ど俺にやらせてただろうが」
「そーでしたっけ?」
舌を出しながら笑う柴咲を脳内で15回ぶん殴りながら、俺も意見に乗っかる。
「でも早く決めねーとマジでキツイだろ。アテはあるのか?」
「うーん、生徒会選挙も終わってるからな。そもそもやろうと思ってない人間に私が指名するのもどうなんだ? って次第だし」
「そりゃそうだけど」
バ会長の苦々しげな表情を見て、それ以上言うのはやめた。
生徒会選挙によって決まった生徒会役員。会長1人、副会長1人、会計2人、書記1人。平素の如く、計5人決まったはずだったのだが、選挙後に会計二人の急遽転校、書記の重い急病により事態は一変。
うちの高校の場合、選挙後の生徒会勧誘は会長に権限があるらしいのだが、どうやらお眼鏡に叶う奴は今のところ俺と柴咲以外いなかったらしい。
タイミング的に俺と柴咲が会計に決まって全校告知した後に、書記の急病が発覚した事もあって、俺を書記にって話はダメとのこと。いや、別に誰が書記とか、誰が会計とか誰も気にしてないと思うんだが……。
「おはようございます、あ、三人一緒だったんだ」
「おーっす
「孝宏……まさか、朝の挨拶でみんなにおーっすって言うんじゃないよね?」
「本気で心配した顔すんなよ……ちゃんとおはようございますって言えるからよ……」
「冗談だよ」
クスクスと笑う男の名前は
一年の時も同じクラスだったが、不良で通ってる俺に対し、物怖じせずにやり取り出来る稀有な存在だった為、生徒会でもわりかし話せる方だ。友達かと言われると微妙だが。
「よし、では平成高校生徒会、今日も一日張り切っていくぞ! おー!」
「はーい!」
「了解」
「っす」
「うわー、まとまりねぇー」
そう言いながら大笑いするバ会長。笑いのツボが相変わらずどこにあるか分からん奴である。
「おはようございます」
すると、部活の朝練等早めに来る者達がやって来た。
一人や一組に対して生徒会全員で横並びになって挨拶をしていく。
こうして、朝の校門挨拶は恙無く終わるのであった。
強いて言うなら……俺の挨拶にビビる輩がいる事くらいが問題か。
そう、これが正しい輩の使い方だからね。うん。
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