僕の嫌いな愛されガール

TOMOHIRO

1章 俺の嫌いな愛されガール

プロローグ

 小学三年生の頃、毎月一回ある母と三越へ買い物に行くのが、堪らなく楽しみだった。

 もらえるお小遣いを握りしめて、屋上のお子様遊園でバカのように遊び倒すのだが、時間があっという間に過ぎていったのを覚えている。

 当時でも小学生がスマホゲームを楽しめるのだから、置いてあるクレーンゲームや乗り物アクションゲームが些かチープだったとは思っていたわけだが、過ぎる時間があっという間に感じていたのは、一人の女の子と遊んでいたからだろう。

 名前は知らなかった。でも月に一回だけ行っているはずなのに、毎回彼女に会えた。

 女の子は会う度に運命だねと言っていたし、多分願望ではなく、それとなく両想いだったと思うし、俺の記憶が美化され過ぎていなければ、かなり可愛かったし、多分いいところのお嬢様だったのではないのだろうか?

 だが、その日は小学三年生の修了式の日に、突然訪れた。

「私、引っ越す事になったんだ。だからもう会えなくなるの」

 まだ風が肌寒い屋上、涙を目一杯溜めてるのを見て、俺もつられて泣いた。

 けれど、彼女は俺にこんな約束をした。

「また会おう。7年後の今日にここで」

「うん、待ってる」

 引っ越す理由も言わず、会う時間も言わず、結局名前も言わず、彼女にそれだけ言われて別れた。

 今考えれば何でそんな昔の約束を律儀に守って俺はこうして待ってるのかって話だ。

「あの……君。閉園時間だよ?」

 ベンチでそんな事をずっとぐだぐだ考えていた俺に突然、遊園の管理人さんが話しかける。

「あ、うす……えっと、ここって、今日で閉園するんですよね?」

「そうそう、表の張り紙に書いてある通りにね」

 寂しそうに笑った管理人さんに俺は多分、引きつり笑いをしながら返す。

「で、ですよね。ははっ」

 笑って誤魔化した俺はさっさとエレベーターまで駆け足。

 約束の7年後の1月31日。正確に言えば6年と10ヶ月ちょっと後。三越の屋上遊園は閉園した。

 好きだった女の子と交わした約束は、永遠に守れなくなってしまったのだった。

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