コドモノミライ

小鳥 遊(ことり ゆう)

ノスタルジー



「僕の将来の夢は、みんなを守るヒーローになることです!」



あれから、何年の月日が経っただろう。



子供の頃は本当になんにでもなれる気がした。



お医者さん、サッカー選手、本屋さん、お花屋さん、そして、夢のヒーロー。だれしもがどこかで輝く英雄に慣れると思っていた。



だけど、現実はそうもいかない。勉強はするのは当たり前かもしれないけど、英雄になるためにはその覚悟と努力が必要なんだって…。でも僕は、、俺は夢を諦めた。



俺は、努力とは無縁に自堕落にこの28年間を過ごしてきたような気がする。決まった職に就かず、やれと言われ、悶々とレジを打つ日々。実家暮らしで彼女もいない。こんな男、誰が救ってくれるだろうか。いや、誰も、手をさしのばすことは無い。



平穏な日常は俺の心を腐らせて、ヒーローになりたいという夢を捨てた。叶う訳もない子供っぽい夢を20年も思い描いてきてよく、いじめなんかを止めてたこともあった。でも、それは本当に無意味だった。



いじめられていた子に自慢げに大丈夫かと聞いた自分が馬鹿だった。彼は、自己満足か?と一言だけ放ってさしのばした手を払った。その時から、俺の心は変わっていったのかもしれない。



ぼーっと作業ゲームのように、流してレジを打つ。何もない日常。何も起きず、同じような毎日が続いていく。吐きそうだ。



ところが、ある日…



帰りに店から出るとそれと同時に綺麗な女性が入ってきた。女性が入ると、店長は優しそうな顔を豹変させ、したり顔で慣れた手つきで女の身体をいやらしく触っていた。女性は少しいやがっているようだった。



俺は嫌だったが、無視するのもまた気分が悪かった。思考では帰ることを選択したが身体(本能)でもう一度店に入っていった。



「なにやってんすか、店長。」



「…君、何を見たんだい?」



店長は俺に圧をかけてくる。俺はもう折れたくない。諦めたくない。



「セクハラは犯罪ですよ。」



「君ィ、お金を稼いでご両親を楽にさせたいんじゃないのかい? こんな事で棒に振ったらだめだよ、さ、今日はもう遅いから帰りなさい。」



強引に店長が俺の手に握らせたのはくしゃくしゃの紙幣が一枚。俺は当たり前だが、この男の金のこずるさに腹を立てたわけではない。こんな金で動かせるほどの男だと思われている事は腹立たしいことだとも思うが、俺は彼女への仕打ちを小汚い金で許してもらおうとしているこの男が許せなかった。



許せないと感じた直後、俺は自分でも制限が効かず、店長を殴ってしまった。殴った後、当然こちらにも痛みがきて、自分のやった事に自分でも驚いた。



自分が悪いわけでもないのに一部を見られ、撮影された俺は取り乱し、店を逃げるように去っていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



最悪の一日だ。



何もしなければいいものを…。俺はこれからどうやって生きればいいんだ。親に白い目で見られるんだろうか、職探しにも時間がかかりそうだ。



俺は、日が暮れ始めた公園のブランコで打ちひしがれる。ブランコをこぐわけでもなく、ただ、じっと空と時を眺めている。子供が遊ぶのをやめて蜘蛛の子を散らすように帰っていく。



あの頃に戻りたい。 ああ、戻りたい。



俺も家に着くとバイトでのトラブルを言う訳でもなく、ひきこもり、自分の世界に浸った。



次の日も職がなくなった事を言い出せず、バイトの時間に飛び出して行く。


やることもなく、この前の公園のブランコで虚を見つめていた。


次も、その次も、そのまた次の日も、、



死んだ魚のような目つきでブランコから空を見上げていた。



だが、神様は俺を身放さなかった、いや地獄を見せてきた。


公園でいつものように遊んでいる子供たち、怖いものや、触れざる者のように見つめる親をよそに俺はブランコに居座っていた。だが、その楽しげな時間は異形な者によって支配されて、子供を連れ去っていく。何の目的かもわからない。何を言っているのかもわからない。ただ、恐怖だけが公園をそして公園にいる俺を襲った。



何もできず、異形の者は親に目もくれず、殺し、子供だけを連れていく。なんで子供だけを…俺みたいに未来の無い奴の方がもっとましなのに。



また、身体が熱く、奔ろうとしている。あれは無理だ。異形の者は人間以上の力を有しているかもしれないというのに、俺は助けようとしている。怖い。手足が震える。行きたくない。行けるわけがない。



頭ではわかっていても、やはり俺の中の何かが突き動かす。重たい足を引きずるように歩きだし、異形の者が子供を連れ去る所を食い止める。 その異形の者の昆虫のような腕を掴むとか細い腕とは思えない怪力で俺を片手で振り払った。



俺の身体は一瞬で吹っ飛び、公園の植え込みの木にぶつかった。


背骨がやられたかもしれない。肋骨も折れてる気がする。 枝、刺さってる、、。


それでも狂ったかのように立ち上がり、息もヒューヒュー粗くなりながらそいつに立ち向かう。



「待てよ、、お前ら。なんで子供ばっかねらうんだよ! そ、そいつらには俺にはない無限の未来がある。俺達、大人はどんな悪い虫でも、未来輝く子供たちのために払いのけなければ、、ならないんだ。どんなにみじめになっても、泥臭くても。 明るい未来を創って、子供たちに未来を託すために! …」



異形の者達はこちらの言語を理解したのか、それとも罵詈雑言と捉えたのか、こちらへと向かってくる。



俺は何もできないまま、植え込みの近くで倒れかけた。万事休すかとも思った。視界がぼやけて光が俺を包んだ。ああ、何もできず、息絶える…



目が覚めるとは致命傷も治り、倒れていた所で立っていた。覚えているのは光の中の少女だった。彼女は口を動かしていたが何を言っていたかは覚えていないが、俺に力をくれた、気がする。ふつふつと力が流れているのを感じているからだ。



『・・・ナラ・・・チカラ・・・ミライヲ・・・・・・。』



ふと彼女の言葉がとぎれとぎれに聞こえる。



流れに身を任せ、天に手を伸ばす。すると雷鳴と共に力が覚醒するのを感じた。最初は戸惑ったが、俺は光そのもののような姿になった。これが、あいつらを倒す力、なのだろうか。



異形の者は雷鳴に恐れるも、俺に向かってきている。こうしてはいられない。


力を解き放ち、怒り、悲しみ、全てを握りしめて相手に拳を届かせる。



異形の者は初め、攻撃を喰らうもぴんぴんしていてうろたえたが、急に苦しみ出し、爆散した。


手ごたえを感じた。俺は、はっきりした。



これが俺のやるべきことなんだと。使命なんだと、生き様なんだと感じた。



次々と襲ってくる異形の者に正義の裁きが下る。子供たちは逃げられたようだ。


公園を抜けるとそこには、同じ種族だろうか、異形の者がうようよとうごめいていた。中には子供を殺そうとしているものもいた。


俺は急いでそちらに向かって、そいつを蹴り飛ばし叫んだ。




「俺は、子供の未来を守るため、お前達を倒す! さぁ、どっからでもかかってこい!!」



今なら、はっきりと分かる。


きっと、彼女はこう言いたかったんだろう。



『勇気があるなら、力をあげましょう。子供たちに未来を、あなたに幸があらんことを・・・』




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コドモノミライ 小鳥 遊(ことり ゆう) @youarekotori

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