第92話 燻る王都
エリネスさんの話によると、炉で使う炎。つまり
そこで国が発したのが火事が起こっても直ぐに鎮火できる街づくりだったのだそうだ。
「無理に
「そんな事を強要したら民が暴動を起こしますわよ」
王都に住む鍛冶師のドワーフ達にとって、良いものを生み出すために必要な炎を手放す事はどうしても無理だった。
たとえ禁止にしたとしても、彼らは決して諦めずにその力を欲するだろう。
たとえ国を滅ぼしてでも。
それがドワーフ族の本能なのだから。
だったら強制的に押さえつけるよりも、街の形を変えてしまったほうが楽だったのだそうで。
むしろ発布された瞬間から鍛冶屋達は一気に火魔法と土魔法を駆使して今のような王都を作り上げていったらしい。
たしかにその二つの属性は、火に強い建築物を作るにはもってこいだったろう。
彼らドワーフ族の大半がその二属性なのはそういうところから来ているんじゃなかろうか。
それを聞いてなんだか俺の中のイメージにあるドワーフってそういうもんだよなと納得してしまった。
俺の目の前に広がる平べったい王都。
そこかしこから煙は上がっているものの、倒壊している建物はあまり見えないのもその御蔭だろうか。
全体的に黒くなっているのは
逆に物理的に壊されたらしい王城は無残なものだ。
多分数本の尖塔が並んでいたと思われる部分は、一番左を除いて全て崩れていた。
中央の日本の城で言えば天守閣の所も半分近くえぐられた様に無くなっている。
「ところで当の
だったら戦わなくていいから有り難いんだけど。
辺りを見渡すが、
力をかなり落としているらしいが、男爵屋敷程度はある巨躯だ。
上空からでも見つからないなんてことはないはずだ。
「もっ、もしかしたらですが。火炎山の火口の中かもしれませんっ!!」
後ろからウリドラの背中にしがみついている伝令兵の声が答える。
その声が震えているのは、彼が高所恐怖症だからである。
ウリドラの背中の真ん中から梃子でも動かないぞと、男爵邸から飛び上がった後叫ぶように宣言して有言実行中である。
仮にも公爵夫人と公爵令嬢相手に、血走った目で宣言した彼の姿を見て異論を挟むものは居なかった。
というか現在のウリドラはかなり大きくなっているので別に真ん中を陣取られても邪魔ではない。
「ぴぎゅう!!」
「エリネスさん、とりあえず何処に着地しますか?」
俺は目の前の王都を指さして尋ねる。
広場みたいなところでもあればいいのだが、そういった所には見える限り沢山の人が集まって復旧作業か救助活動の拠点になっているらしく着陸できそうなところは見当たらない。
王都の門あたりもたくさんの避難民で溢れていて、門の近くに降りても中にはいるのにかなり苦労しそうだ。
「それでは王城の下の方にある公爵屋敷の庭に降りましょう」
エリネスさんが指差す辺り。
ちょうど王城と王都の中間点の左右に大きな二つの屋敷があった。
前に聞いた王の次に偉いらしい二大公爵家というやつだろう。
だが、その公爵家の屋敷も、右側の建物はかなり崩れていて、もともとは左の屋敷と同じくらいの大きさだったと思われるが、今はその半分も無い。
「どっちですか?」
「右のあの崩れてる方ですわ」
エリネスさんの話を聞いた後なので公爵家の人達に関しては自業自得としか思わないが、そこで働いていた人たちは別だ。
助けられるなら助けてあげたい。
「ウリドラ、急いであの右の建物へ向かってくれ」
「ぴぎゅっ!!」
「うわああああああああああああっ」
様々なものが燃えた後の臭いが充満する王都の空に伝令兵の悲鳴を残し、俺達は一路公爵屋敷へ向かうのだった。
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