第四章 蘇る炎の化身。

第91話 王都へ

「王都が壊滅……」


 はははっ、ナイスジョーク。

 な訳はないか。


 眼の前で真剣な顔をして息を切らしている伝令兵の顔からはそんな物は微塵も感じられない。

 もしかして伯爵の罠では?と一瞬だけ思ったが、いったいこれが何の罠になるのか。


「いったい王都で何が有ったのですか? 詳しく話しなさい」


 エリネスさんが威厳に満ちた強い声で伝令に命ずる。

 その言葉にその場にいた全員が気を取り直し兵士の話に意識を向けた。


「はっ! 二日前、王都の火炎山の封印が解かれ、焔竜えんりゅうが復活しました」

焔竜えんりゅうですって!?」

「それは本当か?」


 ガルバス爺が兵士の方を掴み問い詰める。


「ほ、本当であります」

「バカな、焔龍の体はとっくの昔に尽きて、今はもうただのエネルギー体でしか無くなって居ると聞いたが」

「それがどうやら赤竜の体を依り代にして復活したらしく。現在の体躯は伝説に謳われているほど巨大な物ではありませんでした」

「見たのか?」


 その問いかけに兵士は一瞬見を震わせて「はい、見ました」と答える。

 その顔は少し青ざめて。


「大きさはちょうどこのお屋敷位で、体に炎を纏い、口からのブレスによって王都中を火の海に……」


 思ったより大きい?

 いや、それでも伝承にある本来の焔竜えんりゅうの姿よりは弱まっていてそれか。

 さすがドラゴン。

 キングオブモンスターの名は伊達じゃない。


 俺はチラッとウリドラに目を向ける。

 うん、こっちは同じドラゴンでも威厳もなにもないな。


「ぴぎゅう!!」


 俺の目線の意味を察したのかウリドラが抗議の声を上げる。


「王城は? 公爵家は無事なのですか?」


 エレーナが不安そうに尋ねる。


「現在王城は三分の一が崩壊。当時王城には公爵様を初め有力諸侯の皆様が集まっており……私が王都を出た時にはまだ安否は……」

「そう……ですか……」


 どういうわけか封印を解かれた焔竜えんりゅうが突然王城と王都を襲った。

 その時に偶然にも有力諸侯が城に集まっていた。


 なんだかきな臭いな。

 それに。


「兵士さん、聞きたいことが在るんだけど良いかな?」

「貴方は?」

「おれはただの農夫だっ――って、いたたた、エレーナさん耳引っ張らないでよ」

「拓海様、今はそんな冗談を言っている場合ではありません!」


 別に農夫ってのは冗談でもなんでもないんだけどな。


「このかたは田中拓海様。私達キーセット家の者を命がけで助けてくれた素晴らしいお方ですわ」


 命なんて掛けたっけ?

 まぁ、最初のダークタイガーの時は死ぬかもしれないとは思ったけど。


「そんな大層なもんじゃないよ。それよりもだ、兵士さんに各領主への伝令を頼んだのは誰なんだ? 王城は機能してないんだろ?」

「上の者からは王と宰相様から各地に救援を頼んで回れとの指示が出たと聞いております」

「ん? 有力諸侯とか安否不明なのに王様とか宰相様とかは無事なの?」

「はい、詳しい話は聞かされておりませんが、どうやら焔竜えんりゅうが復活し、暴れだした時には王と宰相様は別の場所にいて難を逃れられたと」


 なんだか重要そうな集まりなのに、国で一番重要なはずの国王と、すべてを取り仕切るイメージの在る宰相の二人がハブにされていたってことか。

 きな臭さが倍増だな。

 でもまぁ、国のトップが無事であれば国というのはなんとかなるもんだ。

 多分。


「でももう王都が襲われてから二日以上も経ってるんだろ? 今から助けに向かっても間に合うのか?」

「拓海様、相手が力を完全に回復させていない焔竜えんりゅうであるなら、王都は暫くの間は持つはずですわ」


 ダスカール王国の王都は、ドワーフ族が得意とする火と土の属性魔法に寄って作られた建物がほとんどなのだそうだ。

 つまり建物自体はかなりの耐火性能を誇っているらしい。


 常日頃から鍛冶で炎を使う事が多い王都周辺では、火災被害を防ぐために自然とそうなっていったとか。

 ガルバス爺の村のような農業中心の周辺領とは全く別物だという。


 ただし物理的な攻撃には耐火性能など役には立たない。

 王城は焔竜えんりゅうの体当たりとか、そういった攻撃で壊されたのだろう。


「拓海様」

「ああ」


 俺はエレーナの懇願するような目を見て覚悟を決める。


「俺が焔竜えんりゅうをぶん殴ってやるよ」


 正直、家より大きいドラゴンなんて拳一つでどうにかなるとも思えないが、とりあえず王都に向かう間、力の種と守りの種を食べてステータスアップをするしか無い。

 すばやさはこれ以上上げても逆に制御できなくなるだけだ。

 器用さとスタミナは使いようがありそうだけど、その分他の種を食べる事ができなくなるし、今は十分だろう。


「でもエレーナさん、一つだけ良いかな?」

「はい、なんでしょう?」

「一発殴ってみて通用しなさそうだったら全力でみんなで逃げような」



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