第80話 我ら領主館へ出発す

 作戦決行日の今日までの間、俺はウリドラの飛行能力を調べるために村の周りを何度も飛んだ。

 子供達にせがまれて、一緒に飛んだりしている間に、男爵家から送り込まれたらしい斥候部隊を見つけ強襲し捕縛した。


 エリネスさんによる『優しい尋問』で聞き出した内容は俺を思いっきり呆れさせる物だった。


 というのも、この土地を現在支配しているドリュウズ男爵は、今回の件を未だにドラスト伯に伝えていないらしい。

 自らの手勢でエリネスさん達を捕縛し、それを自らの手柄にするつもりなのだそうだ。


「私も甘く見られたものですわね」

「仕方ないですじゃ。あの若造はドラストと違って、おひい様の実力は知らなのですからのう。ただの貴族令嬢としか思っておらんのですわ」

「あらあらうふふ。これはお仕置きが必要ですわね」


 今日これから俺達は計画通りに領主館へ赴く事になっている。

 まずはエリネスさんとエレーナ、そしてガルバス爺で正面から向かい、会談を申し込む。

 エリネスさんが公爵家の者として、現状の男爵領の改善を求める事になる。

 会談が上手く行けばよし、行かなければ実力行使だ。


 その間俺は上空からウリドラに乗って領主屋敷の監視を行いつつ待機する事となっている。

 地上では応援で駆けつけた元男爵家に仕えていた者達とその協力者達が目を光らせ、領主館からの脱走者を逃さない構えだ。

 緊急の鷹便すら俺は見逃すつもりはなかった。


 本当なら別に領主館へエリネスさん達が訪れた事を隠す必要はない。

 なぜなら彼女達は公爵の屋敷で襲われた被害者であり、行方不明で探されている方だからだ。


 しかし、関所でのドラスト伯の言葉が気になった。

 行方不明のはずの彼女達が既に見つかったという話だ。


 彼の言い分によればエリネスさん達は偽物という事になる。


 一体どういう事なのか。


 王都の公爵屋敷には既にエリネスさんとエレーナは帰ってきているという事なのだろうか。

 だとするとそいつらの方が偽物のはずだ。


 だけど、その偽物の方を本物としようとしている勢力がいて、その勢力の力の方が今は強いのではないか?

 そうでなければ関所でのドラスト伯のあの自信に満ちた態度は解せない。


「ただ、エリネスさん達を偽物にして、消そうとしてたはずの奴が、その仕事を放棄してまで急に王都に向かったのが謎だ」


 もしかしたら王都で何か予定外の事でも起こったのかもしれない。


 だとすると男爵とか本当は放置して一刻も早く王都に向かうべきなんだろうけど。

 エリネスさんが元領民の苦境を放置して行けるわけはないか。


「まぁ、ウリドラが進化したおかげで飛んでいけば、王都まででもそれほど日数はかからないだろうしな」

「ぴぎゅう」


 俺はウリドラの毛を撫でながら「頼むぞ」と、その体を叩くと、腰に下げた袋からあの茎を一本取り与えた。


 一応ここ数日種を何度か植えたおかげで種の在庫も茎の在庫もそれなりな物になっていた。


 初日のような事が起こらないようにとウリドラにきつく言いつけておいたのも良かったのだろうか。

 それとも、初日に全て食べた事で満足したのか、その後はおとなしくしていた。


 飛行実験が終わった後とかにご褒美で与える一本を美味しそうに食べている所を見ると飽きたとかではないようだが。


「もうそろそろエリネスさん達が出発する時間だな」


 俺は『黒と白』の縞模様に戻ったウリドラと共に村の出口に向かう。 

 そう、今のウリドラはあの薄ピンク色だった時と違い元の白より更に白い色をその身にまとっている。


「しかしお前って本当にチートだよな。俺よりチートじゃないか?」

「ぴぎゅっ!」

「いやいや、お前の方がチートだって」

「ぴぎゅぎゅう」


 ウリドラが空を飛べるようになって、すっかりそちらに掛かりきりだった俺が、ウリドラの属性変化実験の事を思い出したのは昨日の夕方だった。

 俺は夕飯の後、エリネスさんに頼んでウリドラの前で光の玉を顕現してもらい、それをウリドラに『喰わせた』のだ。


 そう、炎魔法を喰ったせいで『空+炎』という属性になったのだから、エリネスさんの光魔法を喰えば、もしかしたら『空+炎+光』のトリプル属性持ちになるのではないかと思ったのだ。

 鑑定した結果は『空+光』という現在の状態である。


 どうやらウリドラは『空』属性は固定で、喰った魔法によって二属性目が変わるらしい。

 そして驚いた事にウリドラはその光魔法も使えてしまったのだ。


 さすがにウリドラは光の剣を出す事も持つ事も出来なかったのだが、光学迷彩魔法を使う事が出来た。

 ただし、本家本元のエリネスさんに比べて、ウリドラの光学迷彩魔法は近くにいたらすぐバレる程度のものではあった。


 しかし、今回の空中待機の任務においてはこの能力は素晴らしい威力を発するだろう。

 俺達が空高くにいても、下から見上げただけではなかなか見つける事は出来ないからだ。

 それについては今朝、子供達とエレーナに手伝ってもらってチェック済みである。


「炎属性の時はお前もしかしてファイヤーブレスとか吐けたのかな?」

「ぴぎゅ」

「出来るの? じゃあこの任務終わったらエレーナさんにファイヤーボール出してもらって試そうぜ」

「ぴぴぎゅ!」


 俺達が村の出口にたどり着くと、そこではエリネスさんとガルバス爺、そして村人達が集まって最終的な打ち合わせをしている。


「拓海様」

「兄ちゃん、やっと来た」


 エレーナとツオールが俺達を見つけ駆け寄ってくる。


「遅いよ!」

「すまんすまん、ウリドラの奴がなかなか起きなくてさ」


 俺はツオールの頭をわしゃわしゃ撫でながら答える。

 横でウリドラが「ぴぎゅ! ぴぎゅ!」と抗議の声を上げていたが、エレーナがその鼻先を撫でるとおとなしくなった。


「拓海様、準備は全て整いましたわ」

「村の事も皆に任せてきたわい」


 エリネスさんがガルバスじいと共に俺達の元へ歩いてくる。


「わかりました。それじゃあ行きますか」

「はい」


 この村から領主のある量の中心の街レクスまで、通常は馬で約一日半の道のりである。

 しかし今回はウリドラに乗って空を飛んで一気に街に向かう。


 俺の計算だと途中で休憩を挟んでも昼過ぎには街につけるはずだ。

 領主館に向かうのは明日の朝の予定なのでゆっくり休めそうだ。


 本当なら昨日馬で向かう予定だったのが今日まで余裕が出来たのはウリドラのおかげだ。


 乗馬をした事がない俺にとっても助かった。

 最悪エリネスさんの後ろで必死にしがみついていくはめになる所だったのだから。


 いや、それはそれで約得だったかもとは思わなくもないではないでもないけどない。


「拓海様?」


 エレーナがいきなり黙り込んだ俺に心配そうな声をかけてくれる。


「大丈夫、なんでもないよ。それじゃ行きますか」

「きゃっ」


 俺はそう答えた後、エレーナの腰を持ち上げてウリドラの背中に乗せる。


「もうっ、拓海様。一言声をかけてから持ち上げてくださいっ」

「あらあらうふふ。拓海様、私もお願いできますか?」


 ぷんすかと怒るエレーナとエリネスさんは今はいつもの動きやすい服である。

 街についてから会談のためにドレスに着替える予定になっている。


「ワシもたのむぞい」


 爺もかよ。


 俺はエリネスさんを丁寧に売りドラの上に持ち上げ、ガルバス爺を雑に放り上げた後自分もその背中に飛び乗る。

 大きくなったウリドラの背中は四人を乗せてもまだ余裕がある。

 ある意味丸っこい体のおかげで普通のドラゴンより背中が広いおかげだろう。


「それではいってまいりますわね」

「いってらっしゃいませ」

「兄ちゃんがんばれ!」

「ガルバス様。後はお任せください」

「畑の事、ありがとね!」


 俺達は村人達の声に手を降って答えながら徐々に上昇していく。


「それじゃ頼むぞウリドラ」

「ぴぎゅ!」


 ウリドラはそう返事をすると一気に加速し、大空へ飛び立つのだった。


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