第79話 竜族
「どうやらコイツまた茎食べて進化したみたいでさ」
キャロリアと、今朝とれたばかりの野菜を使った昼食を堪能した後、エリネスさんとガルバス爺と一緒に広場に戻ってきた。
眼の前では俺達と同じ料理を食べて満足したウリドラが、鼻提灯を出しながらまた眠っている。
やはりコイツからは野生の野の字すら感じられない。
「確かに言われてみると一回り大きくなってますわね」
「これ以上デカくなったら村の中に入らなくなるそうですな」
まぁ、必要な時以外は小さくなっていてもらえば問題はないだろうけど、ウリドラがこれからも育ち続けるとしたらその能力もどこまで機能するかわからない。
「まだ飛行能力についてはさっきちょっと飛んだだけなんでどれくらい飛べるのかはわからないんだけど」
「もし何人もの人を乗せて遠くまで飛べるとしたらかなりの戦力になりますわね」
エリネスさんがウリドラのピンク掛かった毛を撫でながらそう呟く。
戦力か。
俺としてはあまりウリドラを戦いに借り出したくはないんだけどな。
特に人との戦いでコイツが人を殺すなんて見たくはない。
コイツにはのほほんと俺のスローライフの手伝いをしてほしいだけだ。
今なら番犬代わりにもなるだろうし。
ただチート種を育てる時だけは注意しないといけないが。
「そういえばこの国には空を飛ぶ魔物とか、ウリドラみたいなドラゴンとかいないんですか?」
いたら捕まえて『品質鑑定』で空属性を持っているかどうか調べたい。
「魔族の支配地域から離れた場所では魔素が薄いせいでその手の魔物は見た事がないですのう」
「じゃあドラゴンは?」
「ドラゴンですか。あやつらはめったに人里には降りてきませんが、稀に飛んでいるのは見かけますな。特にダスカール王国内では赤竜をよく見かけますじゃ」
「赤竜?」
「そう、赤竜ですじゃ。なんせこの国の王都裏にそびえ立つ火の山には赤竜の王である
赤竜の王『
なんだかとんでもなく強そうだな。
しかも封印されているとか。
中二心が疼くじゃないか。
「その
「それはのう――」
かつてこの世界は魔物と魔族を率いる魔王と、その他の種族が激しく争っていた時代があった。
当時、最初は共に魔王軍と戦っていたはずの竜族の王達が、ある日突然反旗を翻した。
その理由は定かではない。
だが、ただでさえ劣勢だった上に、最強の戦力であった竜族が敵にまわったのだ。
王に逆らえない他の竜達も王へ従った。
その日から多種族軍は一方的に圧され始め滅亡寸前まで追い込まれた。
「その頃、突如として多種族軍の中にとてつもない力を持った者達が生まれ始めたのじゃ」
多分女神様がその時初めて介入したのだろうと俺は思った。
「彼らはそれまで防戦一方だった多種族軍に加わると、その力を使って魔王軍を一気に押し返していったのじゃよ」
その時にはすでに魔王軍の中心戦力となっていた竜族の王達だったが、その勇者達によって次々と倒されていった。
そして、残された竜王の核はそれぞれの人種の国に封印され、その有り余る力を逆に利用されるようになったのだそうだ。
「竜族の王って複数いるんですか?」
ガルバス爺は『王達』と言った。
つまり
「ああ、おるぞよ。伝説によれば
「らしいってどういう事です? その核は今各国で封印されて利用されてるんですよね?」
「うむ、それがな。
天空城!?
なにそれ行ってみたい。
ガルバス爺の話によると、その勇者様達の活躍により多種族軍は、一気に魔王軍を逆に滅ぼすかというほど攻め込んだのだそうだ。
その時に
多分、女神様が送り込むのを止めたのだろう。
彼女にとって世界のバランスがとれていればそれで良くて、逆に魔物や魔族を滅ぼすのは本望ではなかったのだ。
結局は多種族軍は決め手を欠き、魔王軍にトドメをさせないまま、結果的に今の膠着状態で落ち着いた。
「それで
「封印した後に取り返されたと伝えられておるな」
「大丈夫なんですか?」
「何がじゃ?」
「いや、その
俺のその言葉をガルバス爺は笑って否定する。
「大丈夫じゃよ。核は残っているとはいえ、その体はすでに滅ぼされておる。仮に封印が解かれても元のような絶大な力を発する事は不可能じゃよ」
「そうなんですか」
日本からやってきた俺からするとその言葉は猛烈なフラグ臭しかしないんだが。
「それに魔族共もワシらと同じ様に黒竜の核のエネルギーを使っているらしいからのう。核のエネルギーはどんどん消費されておるはずじゃ」
無尽蔵にある力じゃないのか。
もしかしてそれぞれの国に核を分けて封印したってのはそうやって力を徐々に減らして行く目的もあるのかもな。
「じゃあもう一つの
俺の質問にガルバス爺は難しい顔をして答えてくれた。
「
天空城の謎の竜王か。
それは燃えるな。
ウリドラが成長していけばその天空城とやらにもいつか行けるに違いない。
俺はまだ見ぬ空の彼方にある城に思いを馳せるのだった。
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