第71話 爆弾発言

「兄ちゃんたちすげー強いんだな!」


 俺がウリドラの事をエリネスさんに相談していると、一人の少年が駆け寄ってきた。

 まだ小学生程度に見える。


 これでも今この村にいる子どもたちでは最年長らしいとあとでガルバスに聞いて驚いた。

 それ以上の年の男子は今、岩塩鉱山に連れて行かれて数ヶ月の労働を義務付けられているらしい。

 

「かっこよかったろ?」

「うんっ」


 少し調子にのってそう口にした瞬間、ちょっと恥ずかしくなった。

 だが少年は素直にあこがれの人を見るような目で大きく頷いて肯定する。

 いい子だ。


「あいつら、たまにこの村にやってきて、せっかく取れたばかりの野菜とか無理やり持っていくんだ」

「税とかじゃなく無理やり?」

「うん。だからいっつも母ちゃんたちは泣いてたんだ。ただでさえこの村のあたりは野菜がなかなか育たないのにさ」


 あの騎士団、完全に野盗と同じレベルじゃねーか。

 人を攫わないだけマシなのか、それとも攫っても収穫量が落ちるだけだから手が出せないのか。

 それにしても――。


 俺は来る時に見た畑の姿を思い出す。

 たしかに村人総出で畑仕事をしていた割に農地も狭くて、なっていた野菜もどれもこれもヒョロヒョロだった。

 ああいう野菜なのかと思ってたけどやっぱり違うのか。


 でもドワーフ族って炎と土の属性を持っている人が多いはずだ。

 特に土属性。

 それがあるなら土魔法で畑位はなんとかなりそうなんだけどな。

 俺はそう思ってエレーナに聞いてみた。


「土魔法は土を自在に操ることは出来ても、養分を増やしたり、野菜が育つ土壌に変化させるような事はできないんです」


 たしかに。

 俺が今まで読んできたラノベでもだいたいそうだった。

 土魔法って攻撃と防御の手段、そして建築系に大活躍くらいしかあまり見たことがない。


「だからガルバス様が、今年の税は免除して欲しいってこのまえ領主様のところに行ったんだけど……」


 少年が悲しそうに目を伏せる。

 その肩にポンッとしわくちゃの手が置かれる。

 いつの間にやってきたのか、その手の持ち主はガルバスだった。


「ワシの力が足りないせいじゃ」

「ガルバス様」


 ガルバスはその手で少年の頭をポンポンっと叩くと俺達に目を向ける。


「お姫様ひいさま、これが今の男爵領の現状ですじゃ」


 ガルバスが語るには、この村だけではない。

 新領主が着任して以来、何処も彼処も生かさず殺さずで搾取され続けている。


「それでも今までは何とか生きながらえてきたのですが、正直言いますと今年はもう餓死者が出てもおかしくない状況」


 ガルバスがいきなりエリネスに向けて頭を下げる。


「お姫様ひいさま、老い先短い爺の最後の願い聞いてもらえんじゃろうか」

「何を突然」

「ワシと共に領主屋敷まで出向いて領主を、ドリュウズの坊主を――」


 ドリュウズ?

 それが今この領を治めている男爵様の名前か。

 一緒に出向いて説得してくれと言いたいわけだな。


 でもそいつ、俺達にあの騎士団を差し向けた黒幕側だろ?

 エリネスさんがそんなところに行ったら、それこそ飛んで火に入る夏の虫ってやつじゃない?


「わかりました、私が出向きましょう」


 やっぱり行くんだ。

 まぁ、俺が一緒についていけば大丈夫だとは思うけどさ。


「ありがとうございますお姫様ひいさま」と言いかけたガルバス。

 だが、それにかぶせるようにエリネスさんが更に口を開く。


「そして、ドリュウズとかいう領主を倒しましょう」

「えええええええええええっ!!」


 俺達はエリネスさんのその言葉に驚愕の声を上げる。

 見かけと違って武闘派だとは思ってたけどそこまでとは思ってなかった。


 しかし、驚愕の表情を浮かべる俺達を他所に、彼女は満面の笑顔で自身ありげに続ける。


「さぁ、男爵領を開放しますわよ」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る