第70話 ウリドラの異変
「ぴぎゅっ」
ファイヤーボールを食ったウリドラは、その後も数発撃ち込まれたファイヤーボールを器用に飛び回りながら次々と食ってしまった。
思ったより機敏なその動きと、ファイヤーボールを『喰う』という異常なその姿に俺が唖然としていると、その俺の横をエリネスさんが魔法使いに突撃する。
彼女は一瞬で魔法使いに迫ると光の剣を使い魔法使いを痺れさせ地面に叩き伏せた。
「よくやりましたわウリドラちゃん」
「ぴぎゅ」
ウリドラはそんな彼女の言葉に片足を上げて答えると、その場に座り込み昼寝を始める。
さっきまでの俊敏な動きは何だったのか。
その真ん丸な姿からは全く想像できない。
「あいついつの間にあんなに自在に飛べるようになったんだ?」
「それよりも拓海様」
「ん?」
エレーナが少し不安そうな表情で俺のそばに寄ってくる。
なんだろ。
もう騎士団は全員ボコったはずだから心配はいらないとおもうんだが。
「ウリドラちゃん、なんだか少し赤くなってませんか?」
「体が?」
「はい」
彼女の言葉に俺はもう一度ウリドラを見る。
たしかに白と黒の縞模様だった毛の白い部分がすこしピンクっぽくなっている。
「もしかしてファイヤーボールを食べたからか?」
「でもそんな話は私が今まで読んできた本でも見たことがありません」
「魔法を喰ったら色が変わる魔物っていないってことか」
「いえ、そもそも魔法が効かないという魔物の話はありますが、食べちゃうというのは書物に書かれていた限りではありませんでした」
う~む。
そもそもこいつは魔物なのか動物なのかも謎だ。
一応ドラゴン種ではあるみたいだが、他の魔物の様に魔素の濃い薄いはあまり関係してない様に見えるし。
ワイルドボア自体はこの世界では魔物ではなく獣だとエリーナからは聞いている。
元の世界でいえば普通にでっかい猪という認識で問題ない。
まぁ、その大きさが熊レベルなのは異常だけど。
「苦しむでもなく普通に寝てるみたいだから大丈夫だと思うけど、一応調べておくか」
「そうですね」
俺はガルバスとエリネスさんに騎士団の事を任せてウリドラの元に向かった。
「幸せそうな寝顔だなおい」
「かわいいです」
ウリドラの近くまでやってきた俺達はそこでもう一つの異変に気がついた。
「拓海様」
「ああ、言いたいことはわかる」
眼の前で眠っているウリドラ。
その大きさが俺達がこの村に来た時より明らかに大きくなっていたのだ。
多分目測だけど二割くらいは大きくなっている気がする。
「もしかして、魔法を喰らったから成長したのか?」
「わかりません。けれどその可能性はあるかもしれません」
謎生物の謎が増えた。
「と、とりあえず鑑定してみるよ」
「おねがいします」
俺はウリドラの少しピンクがかった体に右手を付けると『品質鑑定』と心に念じた。
「えっ、なんだこれ」
「どうかしましたか拓海様?」
「ああ、ちょっと驚いてさ」
=========
名前:ウリ坊
種族:ウリザネスボア・ドラゴン
性別:雌
年齢:2ヶ月
属性:空+炎
品質:132(至高の辛口)
肉質:極やわらかで辛味がある
脂身:舌先がしびれる辛さ
=========
属性に炎が追加されている。
炎魔法を喰ったからだとは思うんだけど、そんな事で属性が増えるのって異常だろ。
もしかして他の魔法も喰ったらどんどん属性が追加されていくのだろうか。
そんなのチートじゃないか。
いや、種喰ってパワーアップしてる俺が言えた義理はないけど。
「それは本当ですか?」
「ああ、本当にそう表示されてる。エレーネさん、複数属性持ちってあり得るの?」
「私の知っている限りではそんな人や魔物は知りません」
この世界では属性は一人一種類が基本なのだそうだ。
そしてそれは一生変わることがない。
属性は種族によってかなり偏りがあるらしく、エレーナたちドワーフ族は大半の者が土か火の属性を持っている。
エリネスさんのような光属性はかなり珍しいらしい。
エルフ族は風と水が大半で、人族は特に決まった属性はない。
獣人族は闇と光という相反する属性を持っているらしい。
闇に潜むウェアウルフとかカッコ良すぎて中二心が刺激されるな。
逆に光属性の獣ってなんだろ?
あれかな? 癒し系のもふもふなかわいい系の獣人とかかな?
よし、この件が一件落着して暮らしが安定したら獣人族の国に行こう。
「拓海様?」
突然顔がふやけた俺を心配そうに覗き込むエリーナのそんな声に我に返った。
いまはそんな先のことを考えている場合じゃない。
「ああ、ごめん。ちょっと考え事しててさ。とりあえずウリドラは状態異常もなさそうだし大丈夫だと思う」
たぶんだけど状態異常とかになっていたら品質も下がると思うから。
「それよりも……」
俺は騎士団を全て縛り上げ終わったのかこちらに向かって歩いてくるエリネスさんを見る。
「後でエリネスさんにも協力してもらって確かめたほうがいいよな」
俺はそう呟くとエリーナと一緒に彼女に向けて大きく手を降ったのだった。
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