3-5 「諸君。整列」

イルルス王国は、起伏の多い土地柄だった。作物の実りが多いとはとても言えない。貧しさを埋め合わせるため、肥沃な大地に恵まれたロムリア地方に侵入した。ロムリア人は身を守るため、イルルスに侵攻し、征服した。


東にも南にも外敵を抱えてたロムリア人は、後背を安全にするため、イルルスに対しては特に穏やかな統治を心がけた。いつしかイルルスはロムリアと強く結びつき、ロムリア人にとっての第二の故郷となった。


イルルス王国の特徴の一つは、宗教勢力が強いことだった。貧しいからこそ、神にすがりたくもなる。山の神を主神として崇め、ほかの王国よりも神官と貴族の距離が近かった。


王都バラディスはランカプールよりも小さな都市だったが、それでもイルルスでは第一の規模を誇る。ここで最も大きな神殿は、山の神に捧げられている。ヴィルヘルムがいるとすればそこが一番可能性が高い。


町中に宿を取ったエリスは密偵を放ち、神殿を監視させた。しかし、めぼしい情報は手に入らなかった。ほかの神殿も偵察させるが、王子の動きも噂もつかめない。各地が大神官人事で揉めている情報はいくらでも集まってくるが、第二王子がそれを収拾しているという話は聞かない。


直接神殿に乗り込むことも考えるが、居留守を使われたらそれまでだ。強制捜査に踏み切っても、発見できる当てもない。すでにこちらの動きを察知され、場所を移されたのかと悩んだ。


十日ほども無駄に過ごしていたある日、エリスの急を知らせる密偵が飛び込んできた。


「隊長はいらっしゃるか」


部屋の入り口を見張る隊員が、密偵を中に案内する。息を切らしているのは、神殿の調査員ではない。二月ほども前に、全然別な地方の偵察に出した男だ。


机に頬杖をつき、退屈そうにぼやけていたエリスは、首をかしげて出迎えた。


「どうしたの? ペンロッドの偵察が終わったの? 特別な動きがあったなら、参謀君を通しておーさまに知らせればいいのに」

「違います。それどころではありません」


密偵は深呼吸をして息を整える。エリスの護衛と、暇つぶしの相手を兼ねるマリーとルキウスも、不思議そうに言葉を待った。


「隊長。都での噂をご存じですか」

「今回都を離れてから、一月経ってるからね。新しいうわさ話は知らないけど」

「では、隊長がフリードリヒ殿下の暗殺を期待しているという話も、ご存じありませんね?」

「は?」


口を半開きにしたまま、間の抜けた表情で固まった。周囲の三人も、何を言ってるんだこいつは、という視線を送っている。


「隊長が暗殺を企てている、ということではありません。そうではなく、殿下の死を望んでいるという話です」

「何で? おーじさまが死んでも私にいいことないよ? うざいなー、とは思うけど、死んでほしいとまでは思わないけど」

「隊長が、ブランデルンの王になるために、です」


エリスの口が閉じた。瞳が横にそれる。きな臭さを感じた。


「どういうこと?」

「また、隊長がアルベルト陛下のご養女になられるという話も流れております」

「なにそれ。聞いてないよそんな話。それ、町の人は信じてるの?」

「まことしやかにささやかれております」

「じゃあ何、私が王女になり、王位継承権を与えられて、おーじさまが死ねば私が女王様だって?」

「左様にございます」


額に手を当てる。瞬きが多くなり、眉がひそめられ、表情がゆがんだ。口元も固く結ばれ、余裕のなさを感じさせる。


「第二王子ヴィルヘルム殿下が、第三親衛隊によって調査を受けていることも広まっています。アルフレッド王子亡き後、王位継承権者はフリードリヒ殿下のみ。ヴィルヘルム殿下が下位に復活するかという噂もありましたが、謀反の疑いをかけられてはそれも無理だろう。そこで、お気に入りの側近である隊長が王女に迎えられ、補欠の後継者になると」

「そんな話、誰が信じるの」

「残念ながら、町の者以上に、本部の隊員達が真に受けております」

「ばっかじゃないの!」


机に手をたたきつけた。ルキウスが尋ねる。


「それを、遠出していたあんたが知らせに来てくれたと言うことは」


密偵は頷く。


「はい、参謀殿の耳には入っていなかったようです。あの方、あまり外を出歩かれませんので」

「その情報がなんで隊員から知らされないの。信じてるんでしょあの馬鹿たち。だったら報告を上げるべきでしょ」

「それが・・・現在、本部の統制を欠いている状況です。隊員達が、急に反抗的になったとか」

「どういうこと!」

「彼らと我らの間には、浅いながらも溝があり、なかなか本音を打ち明けてはくれませんが」


無法者上がりの隊員と、古くからアルベルトの下で密偵を続けてきた者の間の確執があった。本部に一人も古参の密偵がいなかったのが、報告を遅らせることになった。


「どうやら、自分たちの活動、実績が、隊長が玉の輿に乗るために利用されたと感じているようで」

「頭悪すぎじゃない」


マリーにもいらだちが見える。ルキウスはエリスの様子を窺った。今まで見たこともないような険しい視線が、危機的な状況を現している。拳を固く握りしめ、どう動くべきかを考えている。


「そのうわさ話が広まったのはいつ頃?」

「正確には分かりませんが、半月ほどではないでしょうか」


顔を上げたエリスは、ルキウスに自分の護衛を命じた。今すぐに帝都に戻り、本部の状況を確認の後、魔王に事態の報告を行う。すでに魔王の知るところとなっていれば、かなり立場が危うい。いずれにせよ、申し開きをするならば、早ければ早いほどいい。


「私も行くよ」


マリーも旅の準備をした。二人を連れ、エリスは後事を密偵に託し、都への道を急いだ。駅を利用し、馬を代えながら大急ぎで帰った。真冬ということもあり、近くに見える山々も白く染まっている。


道中言葉も少なく、エリスはずっと前だけを見ていた。後ろを行く二人は、その背中を案じた。


数日して、親衛隊本部に帰り着くと、普段以上に広間に隊員が多かった。仕事が全くない時期でもなく、同時にこれだけの人数が休息を取ることは珍しい。つまり、それだけサボりが多いということだ。


だがこのときに限れば、むしろ都合がよかった。エリスは都の全隊員を招集するつもりでいたからだ。呼び出すまでもなく、揃っていてくれれば話が早い。


広間をまっすぐに歩き、隊長席で反転する。両隣には友人達が立っている。急に帰ってきた隊長が何をしようとしているのか、周りの隊員達が見守った。


「諸君。整列」


エリスは指揮官として、配下に命令を下した。こういうのは特別なときだから、普段であれば皆すぐに従うところだが、今日は動きが鈍かった。


「どうしたんだ姉御。イルルスで仕事中じゃなかったのかよ」


大テーブルに座ったまま、整列の号令に従おうとはしない。参謀だけは、エリスの傍らに立った。


「本部から緊急の連絡を受けた。都で、私のうわさ話が広まっていると。そして、その馬鹿話を、諸君らが信じているらしいと」


隊員達は顔を背けた。参謀が頭を下げる。


「申し訳ありません。私の方でも情報を入手できず、ご連絡が遅れました」

「町中で変な噂があったら報告するのが仕事の人たちがいる。それがされてなかったのが悪いだけだから、参謀君は仕方ない」


隊員達が声を上げた。


「変な噂なんかなかったよ。ただ、姉御が出世するみたいだから、よかったなーって、祝ってただけだぜ」

「じゃあなぜ、そのおめでたい話を、参謀君にはしなかったの」

「知ってると思ったからよ。別に、俺たちがわざわざ知らせるまでもないだろう」

「その話を、この広間でしたことは」

「今だってしてたよ」

「密偵が一人帰ってきたでしょ。その密偵が参謀君に報告したはず。それ以前に、ここでその話をしたことは」

「さぁ? どうだったかな。俺たちゃ姉御と違って物覚えが悪いもんで」

「あんた達、私が王女になるなんて話、信じてるの?」

「あってもおかしくない話だと思ってるよ。何しろ、今は第二王子様だって失脚しそうじゃねえか。これで姉御が王女になりゃあ、あとは第三王子一人蹴落とせば完成だ」


話にならないと、エリスはため息をついた。ノウキン族だとは思っていたが、ここまでとは。


「帝国が曲がりなりにも安定しているのは、おーさまがいるから。おーじさまは正当後継者だから、たぶんうまくやれるけど、私が後を継いだってまとまるものもまとまらなくなるでしょ。そのくらい私にだって分かるって事、分からないの?」

「いやいや、姉御は結構いい女王様になると思うぜ? 魔王の次に恐れられる魔女様だし、この前だって初陣で活躍したそうじゃねえか」


エリスはもう一度深く息を吐き、首を振った。


「分かった。もういい」

「何暗い顔してんだ。噂がもし本当じゃなかったとしても、だから何って事もないだろう」


ノウキン達のことは無視して、参謀に後を任せる。


「参謀君、後は任せるから。私はおーさまに報告してくる」

「ご無事で」


ついてこようとするマリーとルキウスを手で押しとどめるが、二人とも一緒に行くつもりらしい。何も言わず、王宮への道を急ぐ。最悪の場面が何度も脳裏をよぎる。


魔王がこんなくだらないうわさ話を信じるはずはない。それは確信できる。だが、自分を信じてくれるはずとは、断言できなかった。問題は噂の内容ではなく、その報告が遅れたこと。エリスがその情報を隠蔽しようとしたとすれば、やましいことがあったからだと疑われること。


もちろん、報告が遅れたのにも事情がある。だがそれも、エリスを処分する理由になる。エリスが隊長を任されているのは、試しにやらせてみた結果、うまくいったからだ。隊の統率をとれるから、管理人を任された。ではいま、隊員の反抗を招いた状態で、魔王にとってエリスにどれだけの価値があるだろうか。


アルベルトの臣下で、無能だからという理由で殺された者はいない。が、遠ざけられることはある。しかし、魔女としての名声を与えてしまったエリスを遠ざけられるだろうか。謀反、とは言わないまでも、王家に背くうわさ話も流れてしまった。そんな、名前ばかり有名な将軍を放置しておけば、次の反乱に担がれるかもしれない。


エリスとフリードリヒは年も近い。同世代とも言える。フリードリヒの統治の不安を減ずるために、内乱を誘発したくらいだ。次世代の反乱首謀者になりかねないエリスを生かしておくことは、魔王にとっても不安の種となるだろう。


情の薄い魔王のことだ。それが必要なことだと判断すれば、すぐにでもエリスを処分するだろう。アルフレッドの妃も、子供も、親族も、まとめて血祭りに上げるつもりでいる魔王なら、そのくらいのことはためらいもしないはず。


エリスは胸元に手をやった。服の下には、首飾りのようにかけられた、一つの小瓶がある。陶器で作られ、木で蓋をされている。いつも肌身離さず身につけている。その感触を確かめながら、自分がどのような死に方をするのか思い浮かべた。


うつむいたまま黙って城門をくぐる。衛士に魔王への謁見を申し入れる。いつも通り手続きは進むが、エリスの言葉に抑揚はなく、怪訝な視線を浴びた。マリーとルキウスは詰め所で待機することになる。謁見まで同席したがったが、さすがにそれでは余計に刺激する。


「私が戻ってこないときは、おとなしく帰ること」


そう言いつけたが、二人ともそれを守る気はなかった。そのときは、あの日の続きをするつもりだ。エリスがアルベルトを毒殺しようとした日の。エリスが失敗したときには、二人で突入し、遺体だけでも持ち帰る。そういう予定だった。


寒いから、というだけでなく、青白い顔で現れたエリスに、アルベルトは湯を勧めた。エリスは首を振ると、少しの間言葉がなかったが、ゆっくりと確認を始める。


「おーさま、最近の噂は聞いてる?」

「何だ?」


魔王の様子はいつも通りだ。まだ知らされていないらしい。


「私はここしばらくバラディスにいたんだけど、そこに本部から連絡が届いたの。都で不穏な噂が流れている。私が王女になり、おーじさまの死を望んでいるって」


魔王の呼吸が止まる。眉がひそめられ、眉間に皺が寄り、頬を拳に当ててなにやら考え始めた。


「その噂の出所は?」

「詳しいことは分からない。私はさっき都に戻り、本部の隊員達に簡単な事情を聞いただけだから。ちなみに、お馬鹿達はみんなその話信じてるみたい」

「ふむ」


魔王の表情も暗く、いつものような余裕を感じさせない。やはり、状況を重く見ているのだろう。だからこそ、エリスは出来るだけ何も隠さないようにした。隠しても見破られる。なら、全部明らかにした方がいい。生き残れる道は、そこにしか開けていない。


死とは隣り合わせで生きてきた。魔王に出会ってからも、それ以前も、いつ踏み外してもおかしくない綱渡りをしてきた。死ぬことそのものを恐れるほど、エリスは現世に執着がなかったが、これは嫌だった。今ここで、そんな理由で処刑されるくらいなら、アルフォンソと戦ったときに死んだ方がましだった。


「お馬鹿達はその話を参謀君にも隠し、私に対する不満をため込んでるみたいで、言うことを聞かなくなってる。おーさまの配下だった密偵達は動いてくれるけど、今後、今まで通りに作戦が遂行できる保証もない」


視線を落としたまま語る。時折魔王を見るが、目が合うことはなかった。魔王もうつむいていたからだ。


蒼白な顔色や、語調、仕草から、エリスがかなり真剣に悩み、いつもでは考えられないほど萎縮していることは明らかだった。だからまず、魔王はその不安、エリスが抱えている的外れな心細さを解消してやることにした。


「エリスよ、おぬしは、儂がそのうわさ話を信じると思ってはおるまいな?」


二人とも顔を上げた。


「噂を信じるとは思わないけど、私がそれを隠そうとしたと疑われるかもしれない、とは思う」

「なるほど。それで、柄にもなく縮こまっておるのか」


普段の、ふてぶてしいほどの余裕は微塵も感じさせない。


「私だって、身の危険を感じれば小さくなるよ」

「そうか? おぬしが儂を暗殺しに来たとき、そんなにしおらしかったか? 見抜かれ捕らえられ、ヒルダに剣を突きつけられてすら、憎まれ口をたたいておったはずだが」

「あれはただの失敗だし。負けだし。あそこで死ぬなら、それはそれで仕方ないもの」

「身に覚えのない流言で死に追いやられるのはつまらんか」

「それはそうでしょ」


少しばかり、エリスにいつもの気力が戻った。


「案ずるな。おぬしを処罰することなどない。ただ、一つ気がかりなことがあってな。それで悩んでおった」


それを聞いて、エリスの頬に赤みが戻っていく。暖炉の熱が、やっと体を温めただけかもしれない。


「実を言うとな、その噂、根も葉もないわけでもない」

「へ?」

「絶対にいやがられると思ったからな、言わなかったんだが」


魔王は席を立ち、右へ左へと歩いた。言うべきか言わざるべきか、天井を見ながら思案する。エリスは待った。普段ならばもったいぶるなと催促するが、今はまだそこまで調子が出なかった。


足を止め、エリスに向き直る。


「おぬしを儂の養女に迎えるのは事実だ」


二人は見つめ合い、魔王の言葉の意味するところを、魔女は受け取りかねた。首をかしげる。


「理由は秘密だ。どうせ断られるだろうからな。断れない状況になってから、勝手に決めさせてもらう」

「本気で言ってんの?」

「儂は嘘はあまりつかんぞ?」

「私、王女様になるの?」

「そういうことになる。もっとも、王位継承権は与えない。フリード一人では不安はあるが、まぁ大丈夫だろう。早いところ世継ぎを作ってもらわんと困るが」


流れている噂では、エリスがフリードリヒに次ぐ王位継承権者になることになっていた。どうやら、全く同じということではないらしい。


「何で私が王女にならないといけないの?」

「理由は言えないと言っただろう。いろいろ大人の事情があるのだ」


だんだんと、エリスの頭も回復してきた。話の流れが見えてくる。


「それって、いつ頃決まったの」

「儂が死んだふりをやめてすぐの頃かのう。おぬしが戦女神を演じている頃には、だいたいまとまっていた話だ」


魔女の口元がやっと緩んだ。ずっと固く結ばれていた唇が解き放たれた。


「それってさぁ、また私に内緒で悪巧みしてるって事?」

「悪巧みではない。これはおぬしを驚かせたくて黙っていたことではなく、実現させるためにはおぬしの妨害を受けるわけにはいかんのだ。それに、絶対いやがられはするが、国のためになる計画だ。それは保証する。血は流れん。むしろ、流さぬための手続きだ」

「つまりその計画が部分的に漏洩し、尾ひれ羽ひれがついて今回の噂が生まれた。そういうこと?」


魔王は席に着き、髭をさする。


「そうかもしれんなぁ」

「全部おーさまのせいじゃないの!」

「だから、儂はおぬしを咎めておらんだろう。いやぁまいったまいった、まさかこんな形でおぬしに知られてしまうとは」


エリスはテーブルに額を付け、全身から息を吐き出した。頭をよぎっていった数々の最悪のケースが、全て無駄になったことはいいことであり、むなしいことだった。何のためにあんなに悩んだのかと。


「帰る」


テーブルに伸びたまま、エリスは口だけを動かした。


「イルルスからわざわざご苦労だったな。まぁ、そのあたりの事情が読み込めるほど、おぬしも大人になり、常識人にもなった。いいことだ」

「ああ・・・イルルスに戻らなきゃ。急いで帰ってきたのになぁ・・・疲れたなぁ・・・」

「しばらくゆっくりしたらどうだ。そもそも、おぬしが出動するべき場面なのか?」

「参謀君が行った方がいいって言うから」

「そうか。だが、本部の統率が必要だろう。情報の漏洩がどうして起きたのかも気になる。ところで、ヴィルの様子はどうだ」

「真っ黒。調べようとすれば逃げるし、逃げ回ってて足取りもつかめないし、これで実はやましいことはありませんでしたって言われたら、私もう何も信じられないよ」

「ヴィルも謀反とはな。王としてはともかく、派閥の調整役としては十分に働いてくれていたはずなのだが」

「おーさま、人望ないんじゃないの?」


魔王は苦く笑うと、話を変えた。


「どうだ、息抜きにチェスでもやるか」

「帰る」


エリスは立ち上がった。


「あぁ待て」


魔王は呼び止めると、棚から木箱を一つ持ってくる。蓋を開けると、細い棒が収められていた。エリスはそれを一本手に取ると、納得した。


「新しいエンピツだ。持つ部分と書く部分に分かれてないけど・・・削って使えって事?」

「そういうことだ。短刀で中身を少しずつ露出させて使え。色つきの物も何本か用意したが、いいか、作り直すの大変だからあんまり使うんじゃないぞ」

「うん」


赤や青の鉛筆も手に取ってみる。木の棒の中に色つきの芯が挟み込まれている。


「おーさまのせいで、ずっと死ぬことばっかり考えさせられた物語を書いてくる」

「その報告はいらん」


「おーさま、ありがとう」、エリスは箱を両手で抱えた。エリス以上に冷め切った心で待っていた友人達は、足取り軽く帰って来る姿を見て、魔王と魔女の度量の深さというか、頭のおかしさというか、世の中の不思議さを痛感し、そしてそれに感謝した。

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