知の在り処:教育と技術

 《大崩落》によって多くの技術や知識が喪われたあとも、人々は探求を続けました。呪われてしまった地を生き抜くために再び一から始まった研鑽の旅は、雪に閉ざされたアールドレルにて終着します。

 ダーナトラムが封じられた後も地に満ちる混沌の力を、人々は利用できないかと考えました。新たな世界の理を理解する上で、混沌や闇との対峙は避けて通れない問題でもあったのです。

 人々は長い時間をかけて、「魔術」を生み出しました。この時人々の中心にいた十二人の魔術師は〈十二賢者〉と呼ばれ、現在のグランベル帝国の基礎を築いたと言われています。

 彼らは〈叡智の書殿〉と呼ばれる学問所を作り上げ、十二の学部を設置しました。それぞれの学部には創設者の十二賢者にちなんだ名前が付けられています。現在の帝国の教育制度では、子供達は六歳になると各地に設置された〈叡智の書殿〉に入学し、六年間、アルテスの学部で読み書き計算や教養など基礎的な知識を身につけます。卒業後、希望者には更に専門的なことを学ぶための六年間の高等教育課程が用意され、進級試験に合格することでそれぞれの分野に進むことができます。

 アルテスの高等教育課程は主に教師を育成するためのものになります。他の学部の講義を受けたり、様々な分野を広く学ぶため難易度は高く、卒業するのはなかなか難しいと言われています。卒業生は賢者の称号とともに、〈叡智の書殿〉で教鞭を執ったり、学問所を設立する権限を与えられます。

 医学のフェレス、化学のタルシス、天文学のアトラス、物理学のレクス、歴史学のマキアス、数学、幾何学のエリウス、生物学のピテス、文学のマルコス、法学のセレス、社会学、政治学、経済学のレイジスは研究者の育成を目的とする課程です。卒業後は先導者の称号を与えられ、各分野に関わる事業の責任者として、あるいは宮廷に出仕し官僚として活躍する道があります。

 十二番目のダーナスの学部は閉鎖されています。ダーナスの学部は禁術や禁呪などを記録し収めておく場所で、特別な許可を得た者のみがその扉を開くことを許されます。


 帝国では、過酷な環境下で生き残るために教育と知の探求、技術の開発や継承に心血が注がれた結果として教育水準が高まりましたが、ガレリス同盟においては、知識は特権階級に独占され、そのような支配体制が構築されてきました。同盟において教育とは貴族の子弟が受けるものであり、人口の大多数を占める農民はかろうじて自分の名前が書けるかどうかといった具合なのです。もちろん、新聞や折本が出回るようになってからは平民も読み書きができるようになってきました。学校ももちろんありますが、ローザリア聖教の建てた修道院が中心となっています。そこで勉強できるのは、読み書き計算と詩歌くらいのもので、しっかり学びたいのであれば、各国の王都にある学院の入学試験に合格しなくてはなりません。そのため、平民出身の官僚は珍しいと言えます。

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