紡がれる歴史:ローザリア聖教〜《導きの星》アドラステラ〜

 ローザリア聖教の本拠は、ダーナトラム海に浮かぶローザリア島という小島です。彼らの掲げるシンボルは、ひとつの王冠のもとに十二の光を描いたもので、青い布地に金糸で縫われます。

 聖教が大陸の秩序を担う宗教に成長するまでの間、多くの波乱や事件がありました。迫害や組織の腐敗、それにともなう改革などです。しかしこれは教会史の一側面でしかありません。十二の神を認め奉じる聖教における本当の窮地とは、病と貧困の蔓延でした。

 人は、奇蹟を操るすべを持ちません。聖女と謳われる青き衣のローザリアでさえ、死者を蘇らせるようなことはできないのです。ケルドの地が不作と疫病に苦しめられた時代を、我々は〈死の世紀〉と呼んでいます。

 〈死の世紀〉に終止符を打ったのは、ひとりの星読みでした。星神アヴィオルの寵愛を受ける神子であった彼は、その名をアドラステラといい、星のごとく輝く金色の髪と目を持っていたと伝えられています。

 彼の血や涙には、穢れを清める不思議な力がありました。アドラステラはその力に気づくと、苦しむものを救うために大陸中を巡り歩き、地を侵す淀んだ水を清めました。旅路は半世紀と続き、やがて彼の死をもって〈死の世紀〉は終わりを告げます。人々は彼を聖なる人と称え、そのわざを奇蹟と呼びました。

 アドラステラの末裔はその奇蹟の力を受け継いでいると言われていますが、真偽のほどは定かではありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る