《託宣の聖女》:青き衣のローザリア

 今日、ケルドの地の秩序を担うローザリア聖教は、ひとりの羊飼いの少女からはじまったものです。少女の名はローザリア。最後にアルタシアと言葉を交わした者と伝えられています。アルタシアはこのケルドの地での旅の終わりにローザリアと話し、ある〈秘密〉を授けました。

 ローザリアはアルタシアが去った後、彼こそが救世主であるという信仰を広めました。アルタシアを信じる者は多く、ローザリアが受け継いだ〈秘密〉を〈アルタシアの遺産〉と呼んで尊びました。やがて、ローザリアは信頼できる者のみに〈遺産〉を引き継がせることを言い遺してこの世を去り、〈託宣の聖女〉として祀られました。ローザリア聖教が今の形になったのはそれから半世紀ほど後のことです。

 ローザリアはアルタシアを信仰しましたが、特別な教えは残していません。彼女が望んだことは、アルタシアを記憶することでした。しかし彼女は読み書きができなかったので、代わりにアルタシアを讃える歌を多く作りました。彼女の手がけた旋律は千年経った今も多くの人々に愛され、受け継がれています。


 ローザリアがアルタシアから受けとった〈秘密〉——〈遺産〉は、ローザリア聖教の教皇が代々引き継ぎ、今日に至るまでその詳細は秘匿され続けています。先文明の喪われた技術や知恵、ダーナトラムの封印の鍵、死者をも蘇らせる奇蹟のわざなど、その正体は様々に議論されてきましたが、人智を超えた力であるというのが共通の見解です。もちろん、真実を知っているのは代々の教皇と聖女ローザリアのみです。

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