第3話:視格の力(side:ジェダル)
アヤメの手を引いて走り出す。アヤメは転びそうになっているが、今は目の前の敵を倒さなくてはいけない。自分のジャケットの下から一つの
その色は、濃い藍色。
「アヤメ、前方地面!」
「は、はい!」
そう促すと、アヤメは慌てたような声を出すが、はっきりと前を見つめる。
その瞳に、夜天の様に黒い瞳に星が瞬く。すると、彼女が見た藍色に塗りつぶされた場所は突然波打つ。いや、液体となっているのだ。
「挨拶もなしにこのような蛮行。あなたたちの方が簒奪者、と言われるのにふさわしいのではないですかね」
相手もこちらに襲撃をかけてくる以上、簡単に攻撃を受けるつもりはないようだ。
吹き付ける直前で飛び上がり、ふわり、と宙を舞い、そのまま優雅に遠く離れた階段に着地する、
藍色に染まった部分が波打っているのをジッ、と見ている。どんな能力かうかがっているのだろう。だが、そんなものに構ってなどいられない。そのまま今度は彼女のポケットからいつも持っている包帯を取り出し、紐解く。彼女を右手に、左手にと移動させながら自身の両腕に巻き付け、そこに銀色のスプレーを吹きかける。そして再びアヤメに見せる。
すると包帯は硬く金属光沢を帯びていく。まるでその銀色にふさわしき鋼鉄の様に。
そこまで見て、相手もようやく納得がいったように頷いていた。
「なるほど、目の能力、というのはわかっていましたが、視力の中でも『色』に関する能力なのですね」
そう、アヤメは視覚の代行者『視格者』である。それぞれの代行者には失った五感にあった力を授けられる。彼女の力、それは視覚の中でも色に関する力だった。
人は物事を感じるとき、五感を使って感じている。触覚で熱や感触を、聴覚なら音を、嗅覚なら匂いを、味覚なら味を、そして視覚なら色や光を認識する。
そして、その得た情報から様々なことを感じ取れる。色一つとってもそうだ。赤いものに対しては熱く感じ、青いものに対しては冷たく感じるものである。
彼女の能力は、まさにそれである。彼女が見たものに、その色にあった性質を付与するのだ。先程の藍色であれば彼女にとって深い青である藍色は深海を思わせるのだろう、そのため深い海の性質を付与された。銀色は鋼を連想して、そこから包帯に鋼鉄の性質を付与したのだ。
今まで何人もの簒奪者を倒してきたのだ。あいつら簒奪者も連絡を取り合うことがあるようで、その中に彼女の情報があってもおかしくはないし、すぐに知られるのは当たり前と考えている。それに俺たち代行者たちは全員『五感』に関する能力を持っていることは簒奪者や代行者全員が知っていることだ。
その上、俺のペアであるアヤメは能力を使うたびに目に光が宿る。それを見れば、アヤメが『視覚』に関する能力だってすぐにわかるだろう。なら、あとはカラースプレーを使っていること、そしてそれに合わせて違う現象が起きているのを見れば、すぐにわかるだろう。
「それで? それが分かったところで、俺たちはその上で勝ってきたんだ、お前に負けるわけがねえだろ?」
不敵に笑みを浮かべる。どんな相手が来ようと負けるつもりはない。俺たちは願いを叶えるためにこの戦いに挑んでいるのだから。
「へえ、そうですか。なら、俺の攻撃を耐えられますよね!『
その言葉とともに、相手の姿が消える。
これは、重たい一撃が来る!!
「アヤメ、離れろ!」
「キャッ!」
アヤメを階段の方に放り投げる。今のままでは受けきれないと判断したからだ。自身の胸に向けて殺気を感じる。攻撃が、来る!
鋼鉄の包帯をまとった両腕を交差して、衝撃に備える。
ガキン!!
「ぐ、ぬううううう!!」
次の瞬間、交差した両腕に強い衝撃が走る。
鋼鉄の蹄と鋼鉄の包帯でできた篭手、その二つがぶつかり合った甲高い金属音が辺りを響き渡らせる。どうやら、相手は飛び蹴りをかましてきたようだ。やはり、相手の武器は足、素早い動きと高く飛び上がれる脚力、そしてこのキックの力。それにこの蹄も、軽々と振るっているが、実際は見た目通りの重さがある。受け止めた両腕の骨がきしんでいる。そのまま受け止めていたら、きっと胸にその足跡を刻んでいたことであろう。
「まあ、そうですよね、これくらいの攻撃は耐えてもらえなくちゃ、面白くありませんからね」
そう言いながら相手は軽口をたたいて直立不動で立っている。
待て、直立不動だと?
今、相手は俺に向かって飛び蹴りしている。当然、ずっとそのままでいられるはずがない。なのに、既にやつは飛び蹴りの体制から両足をしっかりとつけて立っている。そう、俺の両腕を足場にして立っているのだ。それも、交差した両腕の上に、ではなく、飛び蹴りを受け止めた部分を足場にしているのだ。
こんな状態では重力に従って地面に落ちるはず。なのにやつはまったく落ちる気配無く、優雅に俺を見下している。
「この足は本当に素晴らしいですよ。早くなるのはもちろんのこと、跳躍力も持続力もある。そして何より……。この足でついた場所が地面となるのです。足は地面を踏みしめるもの、なら、この足でついた場所こそが地面であり、そこに向かって重力が生じるのも当然ですよね?」
そういう、ことか!
やつの足の力はただ単に脚の力が上昇するだけではない。
足の役割、つまり地面を踏みしめる、という役割そのものが力となっているのだ。故に、既に飛び蹴りを受け止めた後もずっと続くこの圧力は、重力そのもの。今、やつの足と接している俺自身が重力に抗っているためだったのだ。
このままでは、地面に這いつくばり、そのままあの鉄の蹄で踏み抜かれるだろう……。
俺の力だけでは、対処できない……なら!
「アヤメ!! 俺の声のする方向にやれ!」
「は、はい!」
パアン!!
俺がアヤメに合図すると同時に、俺の体にボールが投げられる。それは、赤いカラーボールだ。この戦いの日々が始まってすぐに彼女に持たせたものである。
確かに彼女は眼が見えない。でも、彼女は視覚がない代わりにほかの感覚が鋭い。だから声をかければ、そちらの方向に投げることもできるのだ。
彼女が投げたカラーボールよって俺の左側は赤いインク塗れになる。当然、やつが足場にしている俺の包帯にも赤いインクが飛び散っている。
これでいい、これであとは……
「ジェダルを、傷つけないで!!」
そうアヤメが叫ぶと同時に、体中が熱くなる。そう、彼女の『視格者』としての力が発動したのだ。
今の俺の体は鮮やかな赤塗れ、赤は彼女にとっては炎、熱を表す色である。つまり今、俺の衣服には炎の性質、つまり触れれば燃える性質が付与されているのだ。
「つっ!あっつ!!」
確かに新しく得たあの足は武器であり、
「とりあえず、まずは一発、受け止めやがれ!!」
ドゴッ!
熱さで一歩後ろに下がって怯んでいるところに、すかさず一歩前に出てその紅蓮に染まった拳で殴りつける。それに耐え切れず、そのまま遠くの壁まで飛んでいく。どうにも、彼女の眼で見られたものをまとっていると、普段よりもよく動けるようになっている。だからこんな漫画みたいに相手を吹っ飛ばせてしまっている。
これだけ吹っ飛ばしたら普通なら気を失っているだろうが、どうにも簒奪者の方も神のパーツの影響か、頑丈になっている。少ししたらあいつも目を覚まして再び襲ってくるだろう。
すぐにアヤメの元に駆け寄ると、右腕で彼女を抱き寄せる。
「ちょ、ちょっと、ジェダル!」
「いいから黙って俺の傍にいろ、まだやつは倒れていないんだからな」
そう、今運よくできたこの時間、これを使って俺の世界を描く。
この戦いに勝つための俺の世界を……。
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