第2話:簒奪者からの招待(side:ジェダル)


 世界が変わっていく姿を見届ける。

 そこはマンションの一室から一変して、豪奢な城の一室へとその姿を変える。豪奢な調度品が飾られ、どれも値打ち物ばかりなのが見て取れる。金ぴかで悪趣味なものはだけではなく、色鮮やかな美しい花の文様が描かれているものが描かれた調度品なんかもある。

 きっと貴族なんかはこんなものに金を費やしているのだろう、そんなひねくれた考えが浮かびながらも、こういった美しいものはやはりいいものだ、と再認識してしまう。

 ここは簒奪者たちの住まう城、喪失者たちの城ロストパーツ

 ここに毎夜、俺たち代行者とそのペアは連れてこられる。いや、招待されているのだろう、簒奪者たちに……。

 簒奪者たちは代行者が持つ『感格』を求めている。

 それは代行者の証であり、それを持つ者が簒奪者たちから取り返した神のパーツを捧げることで、神様から願いを叶えてもらえると聞いている。

 簒奪者は神のパーツを手にしたが、それは一時的なもので、ずっとそのまま持っていたいと思い、戦うことを決意したものたち。

 そんな彼らが招待するのだ、代行者である俺たちを……。


 彼女の手をしっかりと握りしめる。握りしめたとき、少し震えていたのが分かった。これも毎回のことだ。どれだけ飛ばされようともこれに慣れることはないのだろう。これから戦いが始まるのだから、心優しい彼女はこれから戦うことを、相手を傷つけることを恐れているのだろう。

 だが、このままここにいるわけにはいかない。彼女が戦えない、というのならここまで生き残ってはいない。彼女の手をグイ、っと引いて歩いていく。そうすれば彼女も歩いてきてくれる。彼女もまた、自分の願いを叶えたいのだから。


「おい、行くぞ」

「あ、ちょっと、早く走らないでくださいよ」


 手をつないで歩いていく。 ここは本来の世界ではなく、目の見えない彼女だけで歩くのは危険である。それに、簒奪者もすぐにこちらに向かってくるだろうから、迎え撃つ準備をしなくてはいけない。

 本当は走っていきたいが、アヤメは眼が見えない。そんな奴の手をとって走ったら、転んでしまう。だからゆっくりと歩いていくしかない。部屋を出て長く続く廊下、そしてエントランスへと歩いていく。

 こんなにのんびりしていては、簒奪者が襲ってきてもおかしくない。常に周りを警戒し続ける。

 いつ簒奪者が来てもいいように自分の懐に『武器』があることを確認しておく。いつも通り、冷たく硬い感触を俺に伝えてくれる。大丈夫、こいつと代行者であるアヤメがいれば、どんな奴が来ようと撃退できる。

 目の前に大きな扉が見えてくる。おそらくそれがこの城から出るための扉だろう。重そうな扉であるが、大丈夫だろう。もしも俺だけの力で開かないのなら、その時は彼女アヤメの力を貸してもらえばいいだけだ。扉を開けようと、手をかけると……


「おや、どこに逃げようとしているのですか? 代行者さん?」


 カツン、と甲高い音が聞こえる。

 そちらを向くと、やはりいた。簒奪者の姿だった。

 今回の簒奪者は茶髪に日に焼けた肌、スポーツでもやっているのか、よく引き締まった体をしている。服はこの城に合わせてか、黒のタキシードを着ている。

 簒奪者の多くは城の力を使って服装を変えていることがある。全く、俺たちの服はいつもと変わらないのに不公平極まりないものだ。

 そして何よりも目に引くのは、その足だった。

 上半身も鍛え抜かれているが、足はさらに筋肉の量が多く、がっしりとしている。

その肌の色は日に焼けた小麦色の肌、などではなかった。金属光沢のある鋼色で、叩いたら甲高い音が鳴りそうだ。そしてつま先は人のものではなく、鋼鉄の蹄をしている。そう、彼の下半身は鋼鉄の馬の足となっていた。


 どうやら今回の簒奪者は、足を失ったものらしい。だから神のパーツの一つ、足のパーツを手に入れたのだろう。

 扉から手を放す。どうやらこの敵からは逃げられないようだ。


「アヤメ、目の前に敵は一人、どうやら足の簒奪者らしい」

「簒奪者……それも足、ということはやはり早いのでしょうね……。となると、逃げきれないのでしょうね」


 彼女は眼が見えないから、俺が言葉で必要なことを短く、分かりやすく伝える。これでも目が見えていればすぐにもっと多くのことが分かるだろうが、彼女は眼が見えないのだから仕方がない。これで最低限のことが伝われば大丈夫だ。

 彼女も覚悟を決めたようだ。本当は城内ではなく、街に出たほうがよかった。ここは相手の城の中、なにが待ち受けているか分からないし、何よりここの調度品をのは心が痛む。この調度品たちも自動的に作られているのかもしれないが、それでも作った人の心が宿っているのだから。

 だが、相手がそれを許さないのなら、相手の責任だ、俺はここで思う存分……


「それじゃ、俺の世界を描いてやろうじゃねえか!」


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