第22話 突然現れた女性に逆レイプされそうなのですが?

「おぉーッ!リアス大森林にこんな場所があったなんて」

「でしょ〜?ここ結構雰囲気暖かくて好きなんだ」


あれから間もなく、レインに案内されて、俺達はとある広場に着いていた。


晴天の陽光が木漏れ日となって照らされたそこは、空気が異様に暖かく、神々しいところだった。


「まぁ、その主な原因があれなんだけどね」

「……あれがッ!伝説の剣ッ!」


それは、広場の中心の岩に刺さっていた。


そうそれはまるで、御伽噺に幾度となく登場する、あの剣のような様相を纏っていた。


レインが剣に向かって話掛けた。


「やぁ、ネーレ。久しぶりだね」

「……んんっ……あら?誰かと思えばレインじゃない。久しぶりね。最近あなた来ないから、退屈だったじゃないの」


喋る剣、か。

悪くない。


「ごめんごめん。ちょっと多忙でね」

「多忙?あなたが?精霊界や神界でも怠惰の象徴と呼ばれ、冬になれば炬燵に逃げ帰り、夏になればアイス棒咥えて寝転がって暇を潰す適齢期逃した出遅れレインが?」

「ちょっとそこまで言う事ある!?何さ、別にそれくらいしたっていいだろッ!それに、精霊に適齢期も何もなくない!?」


ムキイッ!と額に青筋を浮かべ怒るレインだが、絶望的に凄みに欠ける。

あれではまるで、おもちゃを買ってとおねだりしたら親に怒られて不貞腐れた子供だ。


「……あぁ、そうだったわね。あなた、女性としての魅力ないものね。私と違って」

「ハンッ!何自分を棚に上げてるのさ。でも、神界でちょっとやらかして地上へ左遷されちゃったあんたよりかは、私は魅力的だけどね」

「はぁ!?誰が誰と比べて魅力的ですって!?あなたよくそれで言えたわね、全身まな板幼児体型の年齢詐称ババァがッ!」

「言ったな!?無駄に肥やしたワガママボディをひけらかした太った豚さん!あなた脂肪取れましたかッ?あら、そういえばあなた、今はもう体のラインないわね!そうよね、あなた今は剣だものね?あら私ったらごめんなさいな!?」

「今度という今度は、絶対に切り刻んでやるっ!」

「燃やし尽くしてあげるッ!」


開始早々からの罵詈雑言の雨霰。

会話から二人が昔馴染みな事が伺えた。

それと神剣が以前は極めて美人でプロポーションの優れた女性だと言う事も……。


俺としては主に後者について詳しく聞きたいものだ。


「ところでレイン。紹介を頼む」

「ん?ああ、そうだったわね。すっかり忘れてたわ」


おい、頼むぞ。

というより、レインって、思った以上に品がないんだな。

幼児体型な事も相まって、外見と中身のギャップが凄まじ……。


「今失礼な事考えたでしょ」

「いえ我が女神ミリアに誓ってそんな事は一切ございません」

「誰さそのミリアって。まぁいいや。紹介するねネーレ、こちら、なんとエルフと狼牙族を束ねる里の新たな長、ルクシオだよ」

「ん?人間?なんでここに?」

「それがね……」


首を傾げる剣にレインは事の経緯を説明した。


「へぇ、それは面白いわね。ルクシオって言ったかしら?」

「ええ、まぁそうですけど」

「そう、ちょっと失礼するわね」



そう言い終えた時、剣が凄まじい光を放った。放出された光は徐々に人の形に収束していく。


光が治ったとき、俺は絶句した。


目の前に立つ、その女性・・に。


あまりのきめ細やかさに、陽光を煌びやかに反射させる、腰まで伸びた銀髪。

服の上からでも主張が止まない、圧倒的なメロンに、体のラインは見事に引き締まっていてくびれが絶妙なプロモーションを作っていた。


まさしく絶世の美女と形容するに相応しい。


「え?ネーレ人の姿になれるの?」

「強く念じたら行けたわ」

「……それずるくない?」

「ルールの範囲内よ。それで、ルクシオ君?」

「はっ、はい!?」


美貌に見惚れていると、女性の顔が間近まで迫ってきた。


その女性はしばらく、値踏みする様に頭から足先まで見回して、そして口角を上げた。


「うそ……凄いタイプなんだけどッ!?」

「……はい?」


女性は急に頬を紅潮させて叫んだ。


「ねぇあなた、私と契約しない!?どうやらあなた適合者みたいだし!私あなたになら握られたいわ!」

「……すみません、何言ってるか全然分からないです」


ヤバイどうしよう。神剣とかよりもこの現実をどうしよう。目の前で、メロンが……ッ!


揺れている。


……鼻血出そうだ。


「ああ、そういえばまだ自己紹介してなかったわね。私はネーレウス。今は神剣をやっているけど、神界にいた頃は、時の女神だとか呼ばれてたわ」

「とっ、時の女神ッ!?」


……分かったこの人も伝説の類いだッ!

(今更思考が追いつきました)


「ネーレ、急に言っても理解できないでしょ?説明してあげなよ」

「それもそうね、ねぇルクシオ君」

「はい!?なんでしょう」

「ふふっ、別に固くならなくても良いわよ。可愛いわね。私と契約して欲しいのよ」

「契約、ですか?」


それからネーレウスさんは、契約について話始めた。


と言っても、そこまで複雑なものではなく、つまりはパートナーになってくれとの事だ。


会話でも聞いていたが、ネーレウスさんは神界で少しやらかしてしまい、目上の神から『地上で3000年ほど頭を冷やしてきなさい!』と神界を追放された。

そして地上に送られてから約2000年、なんとずっとこの広場で一人ぼっちだったようだ。

移動しようにも剣の姿では不自由だし、そもそもこの広場には特殊な結界が張られていて、広場の外へ出る事すら困難。


唯一の脱出法は適合者を見つけて契約する事。

適合者とは、神剣を握るに選ばれた者のことだそうだ。


「それは……辛いですね」

「全くよ、ずっと2000年も一人は流石にきいたわ。神じゃなければ余裕で精神崩壊してたわ」


考えられない。ミリアがいない間2000年ということだろう?


あっ、別にそういう訳ではないんですね。


「でも、俺契約できるんですか?」

「えぇ、幸運なことに、あなた適合者よ」

「まじですか」

「まじよ」


俺だけが、今この場で契約できると。

ネーレウスさはずっと一人だった。

それがどれだけ辛く寂しい事か。


家族を失った俺は、よく分かる。


助けたい。

打算とかはない。きっと。


確かに、ネーレウスさんはとても魅力的な女性ではある。

だが、それは理由じゃない。いや理由なのだが。

結局の所、俺は結構バカなのだろう。

自分と同じ境涯の子供達を救う為に、日夜修練に明け暮れたり。

俺は自身のやりたい事だけをやってきたのだ。今更、その生き方はもう変わらない。


里だって救ってきた。助けたかったからだ。

狼牙族を迎えた。助けたかったからだ。


そして俺は、ネーレウスさえも助けたいと思っている。

傲慢な事この上ない。

けれど、悪いとは思わない。


それが俺のサガだ。


「分かりました。契約しましょう、ネーレウス、さん?」

「本当に!?やった!ありがとう!じゃあ早速。私の額に触れて」

「えと、こうですか」

「えぇ、そのままでね。『我、神界序列第八位、時の女神ネーレウスは、汝ルクシオ・クルーゼを我が使い手とし、そして主人であると認める』。はい、ありがとう。これで終了よ」

「えっもうですか?ネーレウスさん」

「えぇ、それと、私の方はネーレでいいわ。あなたには、そう呼ばれたいのよ」

「えっ、いやでも」

「いいじゃないルクシオ。愛称で呼ぶくらい、別にバチ当たらないわよ」

「レインまで」


「それじゃ、これから、よろしくね、ルクシオ!」


ああ、全く、世の中不思議な事も起こるものだ。

何故こうも伝説に好かれるのか、まるで英雄譚や御伽噺の伝説が実現したかのようだ。


全く、世の中、奇妙な事も起こるものだと、ルクシオは思うのであった。

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