第21話 醜い争奪戦
我を失った人々は、争う。
時にしてそれは、度が過ぎる戦争に化ける。
「おい、あそこに剣があったぞ!」
「まじか!?何処だ何処だ!」
「惑わされるな!そこさっき見たけど剣なんてなかったぞ!」
「てめぇ嘘つきやがったな!【破滅しろっ!】」
「こいつ森の中で火魔法ぶっ放しやがったぞ!」
「こうなりゃやけだ!【オラァ!】」
「【俺を見ろ!】」
そうして始まった争奪戦開始から数分後がこの状況である。
狼牙族は陳腐なフェイントで敵を惑わし、優れた身体能力で森林を颯爽としている。
魔法に長けたエルフ達は、最早技名すら唱える事なく、何やら語彙にかける言葉を叫び散らしている。
それらが巻き起こす惨状が惨状なだけに、ある意味魔獣よりたちが悪い。
「すげぇ、魔獣どもが宙を舞ってやがる」
そう、その争奪戦の余波を受けた魔獣達が本気で宙をチリのように舞っているのだ。
これは流石に、予想以上に醜い争いだ。
というか、どうすれば良いんだ!
俺も狼牙族と同じように誘導作戦を考えていたのに先を越されてしまった!
どうする?考えろルクシオ・クルーゼ。
あっそうだ。
「たっ、大変だぁッーー!!」
「これは……ルクシオの声か!?」
「いや、惑わされるな。あの人、自身の趣味の事になるとかなりゲスい。きっと誘導作戦の筈」
その場に固まっていた数十名は一度ルクシオの声に耳を傾けたが、思い留まった。
しかしその声は逃さないと言わんばかりに悲壮感を増して……。
「
「「「「なんだとッ……!」」」」
「どうしよう!里のみんなが!死んじまうッーー!」
皆、再び足を止めた。
「俺達は、一体何をしているんだ?」
「きっとルクシオは、リベアを追って行ったぜ?」
「あいつが一番欲している筈なのに。こんな時になってまで、里の事をッ!」
「俺、里に嫁を置いてきちまった……」
「なぁ、俺たちはこのままでいいのか?自分達の家族をほったらかして、こんなことしてて!」
一人のエルフが皆に問いかける。
その言葉に心を動かされる皆は、俯く。
そして……。
「俺は行くぞッ」
一人の狼牙族が立ち上がった。
「俺達狼牙族は本来余所者。俺達はあの里の人達に返しきれない程の恩がある」
「俺もッ、俺も行くぜ!」
そしてまた一人。
「俺も」
「俺もだ!」
一人また一人と、里を救いに行くと言う。
「しゃあっ!全員で行くぞ!里を救うんだ!」
「「「「おぉぉぉッーー!!」」」」
そうしてその場の全員、里へと引き返して行った。
「すまないみんな。君達の犠牲は忘れない」
ルクシオは、その近くの木の裏で合唱していた。
***
それからもルクシオは、エルフや狼牙族を見かける度に、適当なフェイントで惑わして競争相手を減らして行った。
ルクシオは里の長となり、結構人から相談される事が増えた。
その都度酒を飲んで言葉を交わすので、もう出てくるわ出てくるわ里の男達の秘密という秘密。
嫁に隠して肥やしているヘソクリ。
嫁の大事にしていた花瓶を割ったので、証拠隠滅の為に燃やしたとか。
無論、それらを駆使して競争相手を惑わしたのだ。
秘密がバレたと勘違いした男達の、蒼白になる表情はルクシオの悪戯心に火をつけ、それは更に肥大化して行った。
「ふぅ〜、もうみんな里に戻ったかな。さて、俺は探索を開始しますか」
ここまで来れば、後はひたすら見つかるまで探し続けるだけだ。
捜索を続けようとした、その時だった。
「へぇー。里のみんなが一斉に森の中へ走ってったから何事かと思えば、随分と愉快なことしてるねルクシオ」
「レイン?どうしたのさ」
忽然空中に現れた精霊レイン。
……まるでチリの様に湧いたな今。
だが、今はレインの相手をしている場合では……。
「ねぇルクシオ、私知ってるよ。リアス大森林にある神剣の事!」
「……へッ!?知ってるのかレイン!」
「勿論、もう1000年程ここにいるからね。この森林の事なら基本なんでも知ってるよ!」
「まじか!じゃあ案内してくれよ!」
「いいよ!ルクシオなら悪用なんてしないだろうし」
「やった!」
なんだよレイン知ってたのか。
だったらそうと早く言って欲しかったなぁ〜。
「そういえばルクシオ?」
「ん?何」
「……罪悪感は感じてる?」
「……勿論」
レインの言葉に、即答出来なかったルクシオであった。
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