第15話 里を散歩します
俺が改めてエルフの里の長就任につき、夜は宴会が行われた。
狼牙族が長年に渡り蓄え続けてきた木の実や果実に、エルフの里で育てられた家畜の肉。
もちろん人間の俺は生の肉なんで食べられないので、調理する必要があった訳だが、そこはエルフの奥様方の協力のお力を借りて問題にならなかった。
宴会の最中ではいろんな話題で盛り上がった。
例えば、俺がエルフの里に来た時の第一印象。率直に言うと、「変なやつ」だそうだ。
そう思われていた事実に少し凹んだ。
エルフの人達や狼牙族のフォローも、寧ろ俺の心の傷を抉るので、まじめに辛かった。
他にも、俺と会う前のフィアナの様子とかを聞かせてもらった。
俺に会うまでのフィアナは、男性に対して警戒心が強く、頼り甲斐のあるお姉さんタイプだったそうだ。
じゃあ今はどうなのと狼牙族とエルフに聞いたら満場一致で「ポンコツ」だそうだ。
フィアナが露骨に落ち込んで、周りの人が囃し立てた。
もちろん俺も便乗した。
そんな感じで、賑やかな夜は夢のように過ぎていった。
里の大改造は一先ず切りにして、各自普通の生活に戻る。
久しぶりの休暇に皆湧いたが、俺の心の空模様は鬱陶しい霧に覆われていた。
「はぁ〜」
俺はマイホームの自室にて唸る。
と言うのも、とある課題が俺の心の安らぎを邪魔するのだ。
まぁ、別に課題という課題でもないわけだけど。
我ながら、なんで贅沢な悩みだと思うが……。
「暇だ〜」
そう、暇なのだ。
俺がまだ王国にいた時は、娯楽設備がとても充実していたし、何よりミリアがいたので暇を持て余した事は無かった。
しかし、俺の人生の中心であったミリアがいない今、そして娯楽とは無縁の生活は名残惜しく、そして渇望してやまないのだ。
何か、俺の暇を潰してくれる出来事が起こらないかと、惰眠を貪りながら考えていた時だった。
「ルクシオ様!」
フィアナが俺の名前を呼び、部屋に入ってきた。
「どうしたフィアナ?」
「いえ、あの……そのですね。少し言いにくいのですが……」
「ん?なんだ。何でもいいから、言ってくれ」
いつになくしおらしいフィアナが、頰を紅潮させて言った。
「私と、散歩に出かけませんか!」
と言うわけで現在フィアナを連れて散歩中。
よくよく思えば、このエルフの里に来てから何かと出来事があり忙しく、里をじっくり見学する事がなかった。
一人でしてもあまり楽しくないし、フィアナの願いを快く受けた。
「なぁ、フィアナ。散歩と言っても、どこか目的地があるわけじゃないんだろ?」
「まっ、まぁ。そうですね。私はその……ルクシオ様の側に居たかっただけで」
「ん?何か言ったか?」
「なんでもありません!」
そっぽを向かれてしまった。
う〜む、やはり女の子は分からない。
俺の近くには不思議とミリア以外の女はいなかったから、接し方が分からない。
誰か偉人で、女の子の取り扱い説明書みたいなの書いてる人いないかな〜。
「ルクシオ様?どうかしましたか?」
「あっ、いや別に」
「ふふっ。ルクシオ様って、時々ぼーっとしてる時がありますよね?」
「そうか?」
「えぇ。しっかりする時は誰よりも頼りになって、知識も豊富で、それなのに何処か抜けてる感じのルクシオ様が、私は好きですよ?」
「おっ、おう」
そんな返ししかできなかった。
唐突の好き宣言。
反応に困る。
くそっ!
これではまるで、俺が女性に慣れていない奴みたいじゃないか!
未だミリアによる弊害が!
いや違うか?
フィアナはそもそも凄い美人だもんな。
スタイル良いし、衣服から飛び出そうな程の豊満な双丘。
包容力高いだろうな〜、っていや違う違う!
何考えてんだ俺。
やめだやめだこんなの!
「ルクシオ様?」
「はっはい!」
あかん、不のスパイラルや。
「フィアナ!」
「はい?」
若干上ずった声になる。
話題転換も兼ねて、提案する。
「ちょっと神樹を見に行きたいんだけど」
「えぇ、それは良いですけど」
「よっしゃ!」
フィアナに許可を頂き、俺は年甲斐もなくワクワクしながら神樹に向かった。
「やっぱり大きいなぁ」
「そうですね。とても神々しいです」
神樹ウリエルの周りの空気は、とても不思議だ。
本当に空気がキラキラと輝いているように明滅して見えて、空気を吸うたびに、あたかも肺腑に溜まった何かがスッキリするような高揚感を感じる。
この空気には良質な魔力が沢山含まれていて、里ではちょっとしたパワースポットなのだそう。
確かにこれなら、パワースポットに相応しい。
「ルクシオ様、楽しそうですね」
「そりゃそうさ!王国に居た頃は、とにかく伝説の物語が大好きでさ!中でも神樹ウリエルにまつわる本は多くて、その頃から興味が尽きなかったんだ。一生拝む事はないと思ってたけど、まさか本当に存在してたなんて思いもしなかったから、この里に来た時は嬉しさより驚きが強くて。そんな余裕なかったけど、今じゃもう嬉しくって」
「ふふっ。ルクシオ様、まるで子供見たいです」
「みたいじゃなくて実際子供さ。俺まだ15歳だからな」
「はいはい。そういうことにしときますね!」
フィアナはあまり信じたようには見えなかった。
するとフィアナが急に神樹の麓まで走り出して、止まったかと思うとこちらを振り返って……。
「ルクシオ様……」
「ん?なんだ?」
フィアナという、とても綺麗で優しい、静謐さが漂う美人のバックに聳える神樹。
その光景は、俺の脳裏に一枚の写真として焼き付いて、とても美しかった。
「ルクシオ様、これからも……私の側に居てくれますか?」
「ん?なんだその質問は。勿論だけど」
「その言葉に二言はありませんね?」
「……勿論」
ここで何か気の利いたセリフを言えればかっこいいんだろうな……。
自分の意気地の無さを情けなく思っていた時、
「ふふふっ。二人ともとても楽しそうだね」
「そうだね、いいねいいね」
「私たちも混ぜてよ〜」
どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。
声音は儚げな風鈴のように小さくて、抑揚のある声が耳を打つ度に、心地よく感じる。
「えっ、これってまさか……」
「ルクシオ様、あの光って」
フィアナにも不思議な声が聞こえたのだろう。そして見えたのだろう。
俺たちの頭上を揺蕩う光を。
「「もしかして、精霊?」」
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