第14話 セルベスト王国、ミリアの心情

エルフの里にて、ルクシオが長に就任した頃、大陸のとある場所にてー。


「我が求めるは破壊。我が求めるは崩壊なり。我の願いを聞き入れて、原初の崩壊を顕現せよ。【聖なる光の裁き】!」


セルベスト王国神盟騎士隊見習いミリア・シャルロットのスキルは、大陸でも僅か数名程のレアスキル【魔法創造神】。

ありとあらゆる魔法を操り、また己自身で魔法を開発する事に長ける、魔法師にとって最高のスキル。


今放った魔法も、彼女が現存している魔法にアレンジを加えた魔法だ。

先程まで、丘の上からは地面を埋まるほどの魔獣がひしめき合っていたのに、魔法が放たれた地点だけは、地面の肌を覗かせていた。


ーーー「何というでたらめな力だ」

ーーー「俺は天使や神と言われても納得するぞ」

ーーー「誤射したら世界が滅ぶなんて事はないよな」


同行し、後ろに控えている正式な神盟騎士隊の面々も、驚愕を露わにする。

本来、魔獣一体に対して数人で掛かるのが定石なのだが、彼女の前でその定石は不要だ。


既に見習いの身で遠征に参加してから一カ月、たった一人で数千もの魔獣を屠りさるミリアの株価は、今や騎士隊でも最高潮に発ってしている。

しかし、褒め言葉をづらづらと並べられても、彼女の瞳に光は迸らない。


それは一重に、神盟騎士隊の寮に残してきた確執に起因している。


「はぁ〜。何で私、あんな事言っちゃったんだろう」


何となしに呟いた言葉の通り、渡り廊下でのルクシオのやり取りの事についてだ。


「たった一人にして最高戦力。周囲から褒め称えられいるのに晴れない表情とはな」

「あっ、エル隊長!」

「驚かせてしまったかな。そう畏まるな。しかし、何故そんなに元気がない。確かに、初の遠征で1カ月は異例だが、それでも君は元気が売りなはずだろう」

「それは……」

「ふむ、成る程……【蒼の殲鬼】についてだな」

「……っ!何故それを!」

「知らないとでも思っていたのか?というより、この神盟騎士隊において、お前と【蒼の殲鬼】の関係は周知の事実だぞ?」

「そんな!?」


そう。彼女の強さは既に全神盟騎士隊でもトップレベル。あの空前絶後の強さに加えて、端麗な容姿。

彼女にお近づきになりたいと思うものは数知れない。

しかし、その男達は決して変な気は起こさない。

もし起こそうものなら、問答無用で殺されるだけだからだ。他ならぬ、ミリアの想い人・・・にして王都でも有名な人物【蒼の殲鬼】、ルクシオ・クルーゼに。


ミリアとルクシオの両名は二人とも神盟騎士隊では有名で、ちょっとしたアイドル的存在だ。

暗に触れてはいなかったがルクシオ・クルーゼも容姿端麗だ。

故に彼に近づく女性も多かったが、全て彼に接触する前に潰えている。

ミリアによって。


二人は知られていないと思われているが、こんな事を日常的にしていたら、周囲は嫌でも気付く。

今でもミリアに近づく者は数人いるが、彼らは既にミリアの事を半ば諦めている。

ただ想いを告げて、ルクシオ・クルーゼの成す反応を楽しむ為だけにしているのだ。

まぁ、楽しむ、冗談程度で終わるなら、二つ名に【鬼】なんて文字は付かないが。


まぁ、二人はお互いにその事を知らない訳だ。


つまり、神盟騎士隊の面々は皆彼らの恋幕がじれったく、どうせくっつくなら早くしろという意味でキューピッド役をこなしているのだ。


「うう〜そんな。周知の事実だなんて」

「お前らのやり取りは有名で、遠征中の雑談ではいい話題になってるからな。して、何故そんなに気分が晴れないのだ」

「ううっ。その……事なんですけど」


ミリアは遠征に出発する前日に、ルクシオとの間に起きた出来事を話した。

最初は弄り半分で聞いたエルの不敵な表情が、徐々にアホを見る目に変わっていく。


「つまりあれか。【蒼の殲鬼】に振り向いて欲しくてやったら、積年に溜まった鬱憤が暴走してしまい、今のような言葉を言ってしまった……と」

「うぅ〜。はい……」


すると、厳格にして冷然で知られるエルは深い溜息をつくと、バカな真似をした生徒を論すように告げた。


「ミリア・シャルロット。常々思うが、おまえバカだろう?」

「……っ。バカって!?」

「気持ちが暴走したとは言え、よくもまぁ想い人に対して「消えて」なんて言えたな。私なら口が裂けても言えんぞ?」

「だって、ルクシオが……」

「お主、実は然程【蒼の殲鬼】の事を好きではないだろ?」

「な訳ないじゃないですか!!!私は昔も今もこれからもずっと、ルクシオの事が大好き・・・です!!!」

「………………」


一応こんな会話を繰り広げている間にも、魔獣との戦闘は決着していないにも関わらず、砲撃や魔法や騎士達の雄叫びが絶え間なく轟く戦場に、些か大きく響いた。


「あれ、今私何を……」


ミリアは自然と出た本音を反芻し、じきに雪のように白い顔を紅潮させて蹲った。


「私!私ったらなんて事をぉーーー!!!」

「ほぉ、予想以上に愛しているようだな」

「エル隊長!酷いです!恋する乙女の気持ちを弄ぶなんて!」

「お前が自爆しただけだろう。人聞きの悪い事を言うな」


全くその通りなだけに項垂れる事しか出来ないミリアであった。


「……良し。今回の遠征は終わりにしよう。さっさと王都に帰るぞ」

「えっ。でも……まだ」

「さっきも言った通り初の遠征任務で1カ月は異例だ。お前我等が神盟騎士隊の立派な戦力だ。体を壊されては堪らん」

「……」

「それに……二人の関係がそんな状態では、この戦況も関係も悪化しそうなのでな」

「エル隊長……!」


そうして、ミリアは王都への帰還の目処がたった。


ミリアは人知れず小さく拳を握り決意する。


「ルクシオ……待っててね。もうすぐ帰れるから……!」


そして当然、彼女には絶望が待っている。

彼の想い人は既に、王国にはいないのだから。

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