第16話 精霊族

「「もしかして……精霊?」」

「あれ?バレちゃった?」


鈴のような小さい声。

眩く光る球体の中でも、一際神々しい光から、そう聞こえた気がした。


「バレちゃったって、やっぱり……君は精霊なのか?

「そうだよ。びっくりした?」


当然びっくりした。


精霊族……無論、伝説に語り継がれる種族の一つである。

天使や神々と仲が良く、かつて神大の大戦においては、天使族の補佐として力を使った、尊き種族、それが精霊族。


本来精霊族は滅多にその姿を現さない。

人間は当然として、一応伝説の種族として知られるエルフや狼牙族でも、彼らと交流の場である者は数少ない。

ある国では、神聖な種族として、教会でも奉られる程の高貴な存在なのだ。


「君達の事、ずっと見てたよ!」

「?俺達の事を……?」

「勿論、君達の事はずっと見守ってたんだ!」

「すごく楽しそうにしてた!」

「みんな笑顔で楽しそうだった!」


1人の精霊族の発言に、他の精霊族も、溌剌な笑顔を讃えてそう言う。


精霊族にも上下関係なるものが存在するらしいが、俺達の今目の前で話している光の強い精霊は、他の精霊族が子供のようなやや舌足らずな反面、受け答えもはっきりとしていたりする事から、位階の高い精霊なのだと何もなく察する事が出来た。


その精霊が言う。


「ねぇ、私はレインって言う精霊なんだけどね、私と友達になってほしいの!」

「……Whats?」


俺は、隣で唖然としているフィアナに……。


「なぁフィアナ、俺今、精霊に友達申請された気がするんだけど、これ現実だよね?」

「実は私もそう聞こえました。……ちょっと頭おかしくなってしまったのでしょうか?」

「ちょっと!君達私の事をなんだと思ってるわけ!?確かに私は友達になってと言ったわ!」


どうやら夢ではなかったようです。

だがやはり、動揺が拭いきれない。


何度も言うように、俺は伝説の種族ではなく、小心者の人族なのだ。

伝説の種族とのコンタクトなど慣れないほどのガラス細工並みの強度の人族なのだ。

それがどうして、唐突に伝説の存在でも上位の精霊族の、特に高位の位階の精霊に友達申請されたと信じられようか?


まず無理ですね。


これを人里で言えば、周囲の人間からかわいそうな人認定される事請け合いだ。


俺はレインと名乗った少女に訝しむように言った。


「すみません詐欺は間に合ってます」

「詐欺したつもりないんだけど!?何でそんな発想になっちゃったの!」

「すみません自分、奉公出来るような代物を持ち合わせておりません故、今回の件は……御縁がなかったということで」

「今私友達申請断られた!?えっ何で!!!私そんなおかしな事言った!」


これだから伝説の種族は!!!

お前達は俺を全力で殺すつもりか!?


「なぁフィアナ。俺はこの友達申請をどう対処していいのか困りあぐねている。加勢を欲求する!」

「降参を表明します!」

「フィアナ!俺は伝説ではない!この場において俺に発言権がない事など明白!ここはやはり伝説同士で気が休むまでお話をどうぞ!」

「えっちょっと!ルクシオ様!?」


ここは逃げるが吉!


精霊族が人族に友達申請?


もう何を要求されるか分かったものではない!


世にも有名な、対価として生命力を寄越せだとか、金を貢げだとか、そんな詐欺に引っかかって堪るか!


まじ無理死ぬ!


あの無邪気な笑顔の下に、冷酷な一面があるのだと、その疑念が尽きない!


やっぱり俺はにはこのリアス大森林は身に余る!


ここは早々に脱出を!


「ちょっと待った!何で逃げるのよ!」

「うわぁー!!!目の前に精霊族がぁ!」

「ルクシオ様!逃げるなら私も!」

「ちょっとこれもうどうしよう!収拾つかないじゃない!しょうがないな!!【クライムダウン】!」


必死に逃げようとする背後でそう聞こえた時、俺とフィアナを取り囲むように光の粒子に包まれた。


そして心にせめぎあっていた恐怖や不安がいえていき、徐々に落ち着きを取り戻し始めた。


***


「で、少しは落ち着いてくれたかな?」

「「はい」」


俺とフィアナは、地面に正座していた。


周囲には精霊族が何やら楽しそうに会話して浮遊しているが、こちらとしてはその内容が殺伐としたものではないのかと、もう気が気でならない。


フィアナは流石伝説なのか、俺より遥かに落ち着いているように見えた。


いや、ビビっているだけだ。


目の前で、小さな腕を腰に当て、可愛く唇を尖らせながらレインが言う。


「ねぇ、私は別に邪な考えがあって君に友達申請したんじゃないんだよ?」


そんな言葉に、俺はおずおずと口を動かした。


「じゃあ、何で俺に友達申請を?」

「さっきも言ったでしょう?私達は君達の楽しそうに生活しているのを見守ってたって」


確かにそんな事を言っていた。


レインは続ける。


「それでね。この子達、私より位階の低い精霊達がね、君達と一緒に生活したいって言い始めてね。私もそれ面白そうだし、やっぱり見てるだけだと寂しいからね。だから友達申請したのよ」

「えと……つまり。君達精霊族は、俺達と共に生活したいって事か?」

「そうなのよ!なのに君ったら逃げちゃうだもん。びっくりしたよ」


こっちがびっくりしたもん。


「それにね、私達だって何もせずに生活する訳にもいかないから、君達最近、畑の改良しだじゃない?確かに以前よりは遥かにマシになったけど、あれだとまだまともに野菜が育つかは微妙なのよ。だから、私達を友達として認定し、生活させてくれれば、そこら辺のところは私達が面倒みるわ!」


まじか。やっぱりあの程度の改良じゃダメなのか。


本の知識を少しかじった程度じゃ、やっぱり限界があるらしい。


精霊族と友達になる。


少しまだ怖さは拭いきれないが、これは結構良いかもしれない。


精霊族は自然のエネルギーが顕現させた存在。


つまりは自然のエキスパートだ。


このエルフの里、多少の家の改築や畑の整備はしたが、文化レベルで言えばまだ里とは呼べない。


自然に詳しい精霊族が来てくれれば、その辺の問題な軒並み解決する。


「ルクシオ様、私は良いと思いますよこの話」

「……フィアナもそう思うか?」

「はい。でも、私はルクシオ様の判断に委ねますので」


俺は、少し間を空けて、レインの目をしっかりと見て言った。


「分かったよレイン。友達になろう!」

「やった!!!よかったね皆んな!」

「「「「やった〜!!!」」」」

「これからは共に、対等な関係を築いていきたいと思う。だから、何か困った事や……まぁ精霊族にはあまり無いかもだけど、そんな事があったら是非言って欲しい」

「分かったは……ルクシオでいいのよね?これからよろしくね」

「ああ、此方こそよろしく、レイン」


こうして、エルフの里に精霊族が加わった事により、伝説濃度により拍車がかかった。

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