第3話 伝説の種族エルフッ!降臨

「はぁ〜疲れた。フィアナ、一体何処まで行くんだ?」

「後もう少しですよルクシオ」


伝説の種族の一角、狼雅の美少女フィアナと出会ってから、ルクシオ達は暫く森を歩き続けていた。


先ず最初は寝床の確保を優先したいとフィアナに言ったところ、「ならオススメの場所がありますよ!」と提案してきたので現在は土地勘のあるフィアナの案内に従っていた。


しかしながら、蒸し暑さが充満した温室のような空間をそんな長い間ぶっ通しで歩き2時間は経過。ルクシオの体力はそろそろ限界に近づいていた。

普段なら苦もないのだが、2週間ぶっ通しで有るのが効いている様だ。


一方のフィアナというと、そんな暑さや疲労などは何処吹く風と言った具合で、綺麗な鼻歌を唄いながらスキップまでしている。


体力面も伝説級なのか……。


「フィアナ、すまん。本当にそろそろ限界だ。少しの休憩を要求する」


あまりの暑さと疲労故に、少し変な語調になりながらもルクシオは辛そうにしてフィアナに提案する。


フィアナは自分の主と決めたルクシオが倒れそうな程張りのない声を出した為少々目尻を垂らし、口を開く。


「申し訳ありませんルクシオ。ですがもう少しで目的地に着きます。なので後数分の間……我慢できますか?」


はぁ〜、なんと情けなや。

狼雅とは言え、女の子のフィアナでさえ、俺の事を気遣って行動してくれているのに、さっきからなんだ俺は、不甲斐ない。


ただ数時間歩かされただけで根を上げて、フィアナに文句なんて。


そこでふとルクシオはミリアの顔を思い出した。


こんなんだから、愛想つかされたんだな、でも、もう吹っ切らないと。


「分かった。もう少し頑張るよ!」


ルクシオの顔に生気が宿ったのを感じたフィアナは安堵して、優しい口調で言う。


「ありがとうございます、ルクシオ!後もうちょっと、頑張りましょう!」


フィアナはふにゃりと柔らかくそして優しく笑顔を零した。


天真爛漫な言葉がよく似合うフィアナの会心の笑顔に、ルクシオは一瞬後光を見た気がした。自ずと足取りも軽くなる。


そんなやり取りがあって実に数分、視界の奥に森の合間を縫った陽光とは違う性質の、仄明かりが姿を現した。


「見えました!ルクシオ、漸く着きましたよ!」


どうやらその光の先に目的地があるらしい。


疲労がピークに差し掛かっていたルクシオの足から重い何かが取り除かれ、道中で手に入れた相棒の木をほっぽり出し、気が付けばルクシオは一心不乱にその光目掛けて走っていた。


もうすぐ、もうすぐ、休めるッ!


光の向こうに着いた時、ルクシオは呆然しか許されなかった。


この森に深く精通していない人間にとって、否。人間・・のルクシオにとって、これはあまりに非日常的且つ、壮大過ぎたからだ。


「なんだこれ?樹……なのか?」

「違いますよ」


いつの間にか追いついてきていたフィアナがやや口角を釣り上げて少し自慢げに言う。


「これは、神樹ウリエルです」

「神樹ウリエル!?」


その言葉を聞いた時、ルクシオは素っ頓狂な声を出してしまうが、直ぐに自分の世界に入りフィアナの言葉を咀嚼し始める。


ーー昔々、それはもう大昔、人間族を創造した神様は人類達を監視する為世界各地に天使を派遣しました。人類は天使達から様々な技術を学びました。農耕、建築、医術などなどを学んだ人類は世界に散り、国を建て、安寧と平和を掌握したのです。

しかし、魔族や神、そして人間の王達は、更なる繁栄を求めて、戦争を起こしました。


その戦争は熾烈を極め、瞬く間に幾多もの国が、大陸が滅びました。その戦争を嘆いた天使達の中でも、最高位の称号を持つ熾天使達の長、熾天使長ウリエルが、戦争を鎮めたのです。


しかし、戦争の鎮圧をした為、下界で生活する為の力を失ったウリエルは、人類区と離れた遠方の地に身を置き、体内に残った僅かな力で己の体を一つの樹木に封印し、永く眠ることとなったのです。ーー


つまり今、俺の目の前に聳える天にも登りそうな程のこの大樹が、そのウリエルの化身だと言うのか?


つくづく底が知れないリアス大森林。


「あの神話に出てくる、あの大樹か?」

「ふふッ。はい。流石ですねルクシオ様。仰る通り、あの神話のあの大樹です」

「……さいですか」


なんだかもう、驚くのが馬鹿らしくなってきたな。恐らく長い間はこの森に身を寄せる事になるだろうし。この森に留まる以上、今後もこんな神話級の逸物が有ると思った方が賢明かな。


「あら、フィアナじゃない?久しぶりね〜」

「あっミーアちゃん、久しぶり」


神話や伝説の中だけの存在だと思っていた存在が次々と登場して、ルクシオが人間の肝の弱さを痛感しているとフィアナの名前を呼んだ若い女性の人がこちらに走ってきた。


あの人の耳……尖ってる。


いや待て落ち着くんだルクシオ・クルーゼッ!きっとあの女性も又伝説に出てくる何か・・だ!取り乱すな、努めて平静を装え。でなければお前はここで生活する事は出来ないぞ。


そう自分に言い聞かせて、少し気配を消して出方を探るべくその場から少し離れて耳を傾ける。


「フィアナ、あんた見ないうちに綺麗になったね」

「もう、ミーアちゃんたら。つい先日会ったばっかじゃない」

「あらあら確かにそうだったわね。でもよかったわ。前ここに来た時フィアナ少し具合悪そうだったから」

「まぁあの時はね。あっそうそう、つい昨日森を散策してたらリベアに遭遇したんだよ?」

「えっ!あのリベアに、フィアナ……よく無事だったわね?」

「うん、なんとか逃げ切れた」


おい待て!今リベアって言ったか?確か大陸の超危険指定モンスターのか?なんだよ、この森そんな奴うろついてたのか?フィアナそんな事言ってなかったよなぁ?


「災難だったわね、でも無事でよかった」

「えへへ、ありがとう」

「それでフィアナ?そこの気配をうまい具合に消してるけどバレバレのそこの人は……誰?」


あっ、バレてるんですね〜。

ですよね。だって目合いましたもんね。


このまま黙っている訳にもいかず、ルクシオは渋々と姿を見せた。


「どっどうも。こんにちは」

「まぁ!人間じゃない、珍しいわね、この森に人間がいるなんて。……フィアナはなんで人間と一緒にいるの?」

「私が森で餓死しそうになってた時、ルクシオが私の事を助けてくれたの。それでルクシオは今寝床を探してるみたいだったからここに案内してきたの」

「あらそうだったのね。えっと、ルクシオ……でいいかしら?」

「えっ。えぇはい。ミーア……さん?」

「ええ、よろしく」


あれ?おかしいな、なんか俺のイメージと大分違う気が。


「おお、フィアナちゃんじゃないか!」

「あらフィアナちゃんいらっしゃい!」


やや堅いがミーアさんと挨拶を終えると大樹を囲むように構築されている村からエルフと思しき人達が大勢やってきてフィアナを囲んだ。


村の人達の反応やフィアナの対応から分かるけど、どうやらフィアナとあの人達は仲良しのようだ。


少々肩身の狭い思いをしていると一人が俺に気付いた。


「あれ?人間?人間じゃないか、何故こんな所に?」


エルフの人達が俺の方を一斉に品定めするかのように見始めざわざわし始める。


ここで俺はフィアナに助けを求めるように視線をずらす。


「えっと、それはね」


フィアナは、自分が餓死しそうになっていた所を俺に助けられた事、恩義を感じて寝床を探している俺をエルフの里に案内しに来た事を話した。


エルフ族の中でも一際ガタイの大きい男の人が口を開いた。


「成る程そんな事が、ありがとうルクシオさん。フィアナを助けてくれた事、礼を言う」


その男の人達に習って他のエルフの人達も俺に対して深々と礼をしてくれた。


「えっと、頭をあげて下さいエルフの皆さん。大体人間如きに森の精霊とも言われるエルフの皆さんが頭下げちゃダメですって」


エルフの人達のとても綺麗で畏まったお礼をされて、少々狼狽しながら姿勢を崩してとお願いする。


「人間如きって、あなたは不思議な人ですね。それでルクシオさん。寝床を探していると言う事なのですが、」

「はッ、はい!」

「よろしければ、このエルフの里にご滞在なられますか?」

「えっ!」


驚いた。エルフの里に人間を泊める。

ありえない。エルフは人間を嫌っている。

だからいくらフィアナを助けたからといっても行成自分達の里に招くなんて。


「あの、俺の事を危険だとか、嫌悪の目で見ないのですか?」

「えっ、何故……でしょうか?」


そう言ってガタイのいい男のエルフが首を傾げる。

いや、俺が首を傾げたいよ。


「だっだって、俺は人間ですよ。エルフの人達は皆容姿が優れていますし、技量もある。もしかしたら、自分が悪い人間で、貴方達を狙ってここに来たのかもしれないじゃないですか!なのになんで、そんな気前良く招くなんて……」

「ああ、そうゆう事ですか。それには心配及びません。我らは森の精霊と言われるエルフ族です。エルフには皆人の本質を見抜く特殊な加護がございます。もし悪人に出くわせば、その加護に反応があります。ですがあなたにはその反応がない。だから大丈夫だと判断致しました。まぁ、それが効果を成すのは神樹に近い位置にいる時だけですが」

「そっ、そんなあっさり。加護が間違っていたりとか、加護を封殺するスキルで」

「それはありえません」

「えっ?」


エルフの人は俺の言葉を遮ってから、殊更に続ける。


「加護とは、神々の恩恵です。その恩恵に干渉する事は不可能。それこそ、天使や神御本人なら可能ですが、人間のあなたにそれはできません。勿論我々もです」


俺はエルフの目力に気圧されて少し表情が強張ってしまう。


それを見兼ねたエルフは、緊張を溶かしてくれようとしたのか、優しく微笑んでこう言ってくれた。


「それに、私達の友人であるフィアナが敬愛する人なのです。その人が、悪人な訳がない」


そういう事か。どうやら浅慮で物を言っていたのは俺の方だっようだ。

エルフは人間とは比べようの無いくらい長寿だ。人生経験も豊富だろう。人間の醜さも良さも、知ってるんだ。


「えっと、エルフの皆さん。自分は人間で、至らぬ事も多々あるかと思いますが、この里に、泊めてはもらえませんか?」

「ええ、喜んで!ようこそエルフの里へ!ルクシオさん」


こうして、幼馴染に拒絶され大陸を彷徨った一人の人間は、伝説の種族狼雅の少女フィアナを助け、彼女の案内でエルフの里に招かれました。

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