第4話エルフ族が抱える問題

「ルクシオさん。今からこの里の長の家に案内しますので、着いてきてください」

「分かりました」


フィアナの案内によりエルフの里を訪れた俺は、ガタイの大きいエルフのガルドさんに里の長の家まで案内を受けていた。


いくらエルフの人達が歓迎してくれるはといえど、この里の責任者に無断で里にお世話になるのは駄目だろう。


それに、この里のリーダー的存在の人だ。

どんな人なのか、知っておいて損はあるまい。


案内されつつ、興味本位で里の様子をしきりに伺いルクシオの心は気もそぞろであった。


まず、やはり神樹ウリエル…これがやばい!

先は里のだいぶ外からの眺めだったので、イマイチ全体を見ることは叶わなかったが、そもそもこの樹の全体を見ることはできなかった。


神秘的な雰囲気を神々しく纏い、その堂々とした佇まいも見事ながら、樹の先端部になる新緑の葉がとても美しく陽光を浴びて輝いていた。


樹そのものが光り輝いているように、壮観だった。


まるで、歴史の流れを見てきたかのような婉麗極まった様に、『人生とは何なのか?』という問いを投げかけられているような、そんな思慮深いものだった。


(やばすぎだろ?これ、本当に樹なので?)


神樹ウリエルに魅せられ、軽く心身離脱していると、すぐ前を歩くガルドさんが、真剣な声音で懇願するように言ってきた。


「ルクシオさん、もうすぐ族長の家に着きます。念の為、心の準備を」

「…はい?」


(心の準備?一体何に?)


それにしても、神樹ウリエル以外ににも少し気になることがある。


(皆んなが皆んなじゃないけど、少し痩せこけてはいないか?)


パッと見ただけでは気付かないが、頬骨が浮き出たり、腕が細かったり、目の下に窪みが出来ていたりと、不自然だ。


暫くエルフの里を興味深く眺めていると、直ぐに族長の家らしき場所に着いた。


「ふ〜」


ガルドさんがドアをノックする前に、嘆息を吐いた。


(ん?なんだ)


俺の隣にいるフィアナも、少し顔を歪めている。


まだフィアナに出会って1日も立っていないが、爛漫という言葉がよく似合うフィアナが、こうもあからさまに表情が変わるということはなかった。


ガルドとフィアナの、まるで今から戦場に出陣する兵士を彷彿させる表情にルクシオも堪らず唾を飲み、ありありと身なり整えた。


「トントン。失礼します、族長。客人を連れてまいりましッ?」

「ガルド、久しぶりだなぁぁ!」

「うわっ!」


家の中に入ると、先頭のガルドさんに誰かが抱きついた。


突然の事でルクシオは唖然としながらも、本能的にその事の成り行きを見守る体制に入る。


「やめてください族長!同じ男同士でこれは辛いです!それと、つい一昨日会ったばかりじゃないですか?」

「固い事を言うでない!それに、もう儂は歳じゃて。一昨日も一ヶ月も大して変わらん」

「族長はまだ700歳でしょう?まだ全然大丈夫じゃないですか?」


ガルドさんは面倒臭そうに抱きついてきた族長を剥がそうと抵抗している。

一方、族長はガタイが良く膂力もありそうなガルドさんを赤子を捻るようにあしらえている。


(そもそも会話の内容がおかしくはないだろうか?)


一昨日も一ヶ月も変わらないと豪語している族長はまぁ、態とボケているのだと信じたいとして、700歳ならまだ大丈夫とか言っちゃってるガルドさんは人間寿命の短い生物の俺からすれば、天文学的数字過ぎてリアクションに困る。


「おや、フィアナちゃんじゃないか?愛しのフィアナよ、ガルドに虐められた惨めな年寄りをその母性溢れる体で慰めておく…ヴォエ!」


ガルドさんとのお戯れタイムは終わり、対象の矛先はフィアナに向けられた。

族長は外見からは想像できない速さで突進し、フィアナに抱きつこうとジャンプした。が、フィアナのパンチをもろに食らって壁まで吹っ飛んだ。


「やめてください族長。狼雅族の女性は、己の伴侶と決めた者以外に肌は触らせない掟です。そもそも族長なんて私のストライクゾーンとは離れ過ぎていて無理です。いい加減やめてくれます?出ないとそろそろ本気の拳が出てしまいそうなので」


(怖っ!フィアナこっわ!俺の知るフィアナじゃない)


「ぶはっ。相変わらず辛辣じゃのうフィアナよ。そんなんでは伴侶など見つからんぞ」

「余計なお世話です。それに…私が仕えるべき伴侶は、もう見つかりましたから」


そう言うとフィアナは俺の方に暖かい視線を送ってきた。それは、好奇心や感謝ではなく、1人の恋する乙女がする、とても魅力的な視線だった。


不意打ちのような形でフィアナのような魅力的な歳の近い異性にそんな視線を送ららればら今までミリアしか知らなかったルクシオはドキリとしてしまう。


「ん?お主は人間か?珍しいな。この里に人間が招かれるとは」


ルクシオに気付いた族長は先程までの軽薄な態度とは打って変わって真剣になり、ルクシオを品定めし始めた。


そこにガルドさんがルクシオにあらぬ勘違いをされないよう言う。


「族長、実は今回ここに来たのは、こちらの人族のルクシオさんをこの里に暫く招こうと思いまして…」

「うむ分かった。良いぞ」

「えっ」

「へっ?」


あまりに簡単に承諾を貰ってルクシオは寧ろ族長が何かを企んでいると感じてしまい、聞いてみることにした。


「あの、族長?そんなに簡単に承諾してもらってよろしいのですか?自分で言うのもなんですが私は人族で」

「構わん。お主は問題ない。ガルドが態々招きたいとここに来たのは初めてだし、あの警戒心雅強いフィアナが認めた男。そして儂の加護にも反応はない。だから大丈夫じゃ」


さっきガルドさんに言われた事と似たような事を言われた。

フィアナとエルフ族の加護はそれ程に信用が高いらしい。


「ただし、条件がある」

「族長!」

「いいよ、フィアナ」

「ですが!」


まぁ当然といえば当然だ。

どんなに気の良い人でも、素性の知らない人をただで住まわせてくれる筈が無い。


「条件は、最近このエルフの里を襲撃する魔獣の討伐じゃ」

「エルフの里を?」

「そうじゃ、今から丁度一ヶ月前に里の畑や家畜が襲撃されて、軽い食糧難に陥っておる」


(それで…里の人達が妙に痩せこけていたのか)


「幸いなことに今はまだ積年に貯めた食糧で何とかなってはいるが、その量も高が知れている。もう長くは持たない。なので来週辺りに里の腕利き達を集めて討伐を決行することにした」


族長が事の発端を語り始め、目を「カッ」と見開いてから、雄弁に言い放つ。


「討伐対象は…」


この時、ルクシオは首筋に寒気を感じた。

その原因は、朧げながら理解している。

これから放たれるのは、ある意味死の宣告。

目で捉える事叶わない鎖が、ルクシオの体をギシギシと音を立てながら拘束する錯覚に囚われる。


「ある国の超危険指定モンスターの一体」


(ああ、まさか。そんな…)


「リベアだ」


さて、この時僕は…何を思ったでしょうか?

死、恐怖、願望、理想、そんな小さな事で済むものではない。

それは、人間の根源的な欲求からくる、抗い難いもの。


(寝床はどうしようかな?)









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