主人公は刺青の彫り師。海のノマド的な民族の中でも、変わり者と評判だ。そんな主人公のもとに、さらに風変わりな二人がやって来て、主人公に刺青を依頼する。主人公の民族では、刺青は成人の証だった。つまり、一種の通過儀礼だ。
主人公の刺青は、施術を行う場所や材料まで、その人や信仰によって意味が異なる。まるで、主人公の刺青は、人によって姿を変える生き物のようだ。
二人はサメの歯を用いた刺青を、主人公に依頼するが、鋸状のサメの歯を使った施術には大変な痛みを伴う。しかしそれは、サメが受けた痛みでもあるとされた。女性はその痛みに耐えて見せたが、女性と共にいた男性は痛みに悶絶する。それでも主人公は自分の仕事を完遂する。
民族学的考証に裏打ちされた、刺青の彫り師の物語。
拝読後には、柔らかな気持ちになれます。
民族学が好きな方に特にお勧めします。
是非、御一読下さい。
身分の証明として、装飾として、通過儀礼として、肌に色素を入れることで文字や紋様を描く、刺青の文化。
海の星・アルマナイマ星の海洋放浪民・セムタム族にとっての刺青(オルフ)の文化を軸に、伝統と神聖さの中に生きる側と、外から入ってきた側との感情の交錯が、繊細に描かれています。
図案の意味合い、色素やそれを肌に入れ込む素材、アフターケアに至るまで、緻密に作り込まれた題どおりの「博物誌」。
外から入ってきた側、ドクター・アムの瑞々しくも時に危うさのある感性と好奇心が、「痛み」を伴うネガティヴな一面を持つ行為を通して垣間見えるのも、文化の1ページを際立たせているようです。