第56話
いつしか夏が過ぎ、そして秋が終わった。――
季節が冬の装いに移り変わっている。
事件といってもおかしくない様々な出来事から八ヶ月が過ぎようとしている。
それにしてもあの人は何んだったのだろう? 突然のように現われ、突然のように姿を消してしまったあの占い師。いま思うとまるで夢の中を彷徨っていたようだ。
偶然あの人と自分が接する機会があり、それが原因かどうかは判然としないが、大切な親友をひとり亡くしてしまった。これは紛れもない事実である。
弓削は忘れることなく、ちゃんと胸に刻み込んでいる。
いまでも自分がこうして生きているのが不思議に思えてならない。最後に聞かされたくにちゃんの話が、耳朶の奥から消えるまでにずいぶんと時間を要した。それ以来、恐怖感を避けるということもあったが、あの露地にはまったく顔を見せたことがない。当然、占い師やくにちゃんがどうしているのかもわからない。
長い時間をかけて、幻想のような呪縛から解き放たれた。もう二度とあんな怖さと辛さを同時に味わうのはごめんだ――心底悔悟することしきりだった。
しかし、いまでは何もかも忘れ、やっとこれまでと同じ生活に戻っているような気がしている。
( 了 )
裏通りのピエロ zizi @4787167
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます