第54話

 数日後――。

 数字のことが気になって仕方のない弓削は、どうしてもそれが聞きたくて、もう一度裏通りに足を搬ぶ。

 山里のことがあって以来、なぜか自然にここに足が向いてしまうのは気のせいだろうか。ときどき、ふと自分が半分だけ違う世界に足を踏み入れてしまっていると錯覚することがある。いまではこの露地を包み込んでいる空気にまったく違和感というものがない。

 そんな気持を胸にしながらやって来たのだが、この前と同じでどこを見渡しても占い師の姿はなく、商売道具の所見台もなかった。ただ人通りのない露地の闇が何かいいたげな気配を漂わせているだけだった。

 弓削は諦めてくにちゃんの店を覗いてみることにした。しかしやはりここにも姿はなかった。

「きょうも来てないみたいだね、先生」

「あっそうそう、昨日店に電話があったわ」

「えッ! 先生から?」

「そう、詳しいことはわからないけど、何でもいま九州の博多にいるみたいよ」

「えッ、九州ってあの九州?」

 弓削はそう口にしながらもいささか思い当たる節があった。

 あの日、身の上話を聞かされたとき、昔の彼氏が九州に行ってしまったといっていたのを思い出した。

「近いうちに戻るのかな」

「いやあ、あの電話の調子では、しばらく向こうにいるような口振りに聞こえたけど……」

「ふうん」

 そう聞かされてしまうと、どうしようもなくなってしまった。まさか九州くんだりまで出向いて、さらに博多の街を捜し廻って尋ねるものでもなかった。

 手立てがなくなって諦めた弓削は、気分を替えてくにちゃんと飲むことに決めた。

 もうくにちゃんの気心も知れ、気楽な相手として話ができるようになった。こうして差しで飲んでみると、以外に気が合うことがわかり、先生にはわるいけど結構愉しい酒を味わうことができている。ただ、先生の話に差しかかると、ふたりが遠慮がちになって話がぎくしゃくしはじめるのだった。

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