第53話

「いらっしゃーい」

 相変わらずの元気のいい声を伸ばした。

「先生きょう来てない?」

「あら、待ち合わせじゃなかったの」

「違うんだよ、まあ、とりあえずビールでももらおうか。それにつまみを適当に」

「はい、ちょっと待ってね。いますぐ用意するから」

 くにちゃんは弓削の前から外れた。

弓削はカウンターに頬杖をつき、額に手を当てて思案した。

くにちゃんに勧められてビールをひと口流し込むと、

「先生が顔を出してないのはきょうだけなの?」と、さりげなく訊いた。

「――そういえば昨日も顔を見てないわね。ほとんど毎日のように顔を見せるんだけど、偶にこういう日もあるからあまり気にしなかったわ。何か約束でもしてたの?」

「いや、そうじゃないんだ。ちょっと近くまで来たんで、顔でも見てこうかなと思って……」

 弓削は適当に話を拵えた。

 弓削は占い師が店に立ち寄るかもしれないと思い、一時間ほどくにちゃんと世間話をしながら時間を潰した。しかし一向に顔を見せる気配がないので日を改めることにして店を出た。

 釈然としない面持ちで夜の繁華街を駅前に向いて歩いた。時間がそれほど遅くないせいか人の流れが多かった。

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