第53話
「いらっしゃーい」
相変わらずの元気のいい声を伸ばした。
「先生きょう来てない?」
「あら、待ち合わせじゃなかったの」
「違うんだよ、まあ、とりあえずビールでももらおうか。それにつまみを適当に」
「はい、ちょっと待ってね。いますぐ用意するから」
くにちゃんは弓削の前から外れた。
弓削はカウンターに頬杖をつき、額に手を当てて思案した。
くにちゃんに勧められてビールをひと口流し込むと、
「先生が顔を出してないのはきょうだけなの?」と、さりげなく訊いた。
「――そういえば昨日も顔を見てないわね。ほとんど毎日のように顔を見せるんだけど、偶にこういう日もあるからあまり気にしなかったわ。何か約束でもしてたの?」
「いや、そうじゃないんだ。ちょっと近くまで来たんで、顔でも見てこうかなと思って……」
弓削は適当に話を拵えた。
弓削は占い師が店に立ち寄るかもしれないと思い、一時間ほどくにちゃんと世間話をしながら時間を潰した。しかし一向に顔を見せる気配がないので日を改めることにして店を出た。
釈然としない面持ちで夜の繁華街を駅前に向いて歩いた。時間がそれほど遅くないせいか人の流れが多かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます