第52話

 そのとき、もしそれが明日の新聞発表のものじゃなかったとしても一週間後を愉しみにすればいいと言い聞かせたりもした。

 ハンバーグの焼ける匂いが流れてくる。チリチリと脂の跳ねる音も一緒になって聞こえてきた。息子の友一を中心とした献立に傾倒するのも理解できるのだが、疲れきった躰の弓削にとっていささかきついものがあった。

 いつも弓削は妻に仕事で遅くなるといって家を出る。だが、実際はそうでないことが多いため、何かしら後ろめたいものがあって、夕食の内容について口を挟むのを差し控え、出された食事を黙って口に搬んだ。


 翌朝、弓削が目を醒ましたのはいつもより二十分ほど遅かった。いつもの時間に妻が声をかけに来たのだが、空返事を返したままでまどろみに一瞬身を委ねてしまった。連日の疲労がそうさせたのだ。

 妻に促されて朝食もろくすっぽ摂らないで慌てて家を出る。それこそ新聞に目を通す時間さえもない状態だった。

 駅にたどり着くまで新聞のことが気になって仕方なかった。

 駅に着いても新聞を買う余裕もなく、結局弓削が新聞を拡げたのは会社に着いてから。弓削は当然のことのように自身を持って宝くじの発表が載っている辺りに目をやる。


 7 11 16 23 31


 弓削は目を疑った。信じられなかった。最初から四つ目まではよかったが、最後のひとつだけが違っているのだ。弓削は小首を捻って考え込んだ。

 果して、一昨日聞いた数字は今回のではなかったのだろうか。もしそうだとしたら、偶然とはいえ数字が四つも符号していたのがどうも解せない。手帳を開いて数字を確かめる。

 

 7 11 16 23 29  


 間違いなく最後のひとつだけ聞いた数字と違っていた。

仕事をしながらも一日中そのことが頭から離れなかった弓削は、少し遅めに会社を出ると、例の占い師がいるはずの露地に足を向けた。雲中を彷徨するような釈然としない気持を振り払うために、どうしても占い師に逢って確かめたかった。

 露地に入って通りの中ほどを覗ってみたが、店を出している気配がない。時計屋の前まで来たが、やはりどこにも姿が見当たらなかった。

 ひょっとしてくにちゃんの店で飲んでるかもしれないと思い、一度覗いて見ることにした。くにちゃんの店のガラス戸を開けて中に入ると、客がふたりいるだけで占い師の姿はなかった。

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