第51話 9
次の朝、弓削はベッドの中で大事なことを忘れていたのに気がついた。
昨日の夜占い師が数字を予言してくれたまではよかったが、それをいつ購入したらいいのか訊きそびれてしまった。
しかし、冷静になって考えると、五桁の宝くじは四桁のそれと違って組み合わせというものがない。並びの数字そのままである。だから何回投資をしても毎回二百円ですむ。
もちろん数字が決まっていてのことだが……。
弓削はいつものように昼の休みに宝くじ売り場に行くと、さっそく手帳を繰って数字の書いてあるページを捜し出すと、申込み用紙にそのままの数字を写し込んだ。ちょっと欲が頭をもたげはじめ、同じ数字の組み合わせを五口買って千円を払った。もしその数字がきょうのじゃなかったとしても出費は千円。いままでの当選金の合計から較べたらどうってことはなかった。
弓削はその足でコンビニへ行き、紙パックの牛乳とサンドイッチを手にすると、近くのビルのグリーンゾーンに置かれているベンチの端に腰掛けて昼食を摂った。
サンドイッチを頬張りながらビルのエントランスを眺めていたとき、頭の中に0が幾つも並んだ数字が突然浮かび上がってきた。五桁の一等当選金となると、少なく見積もっても六、七百万ある。下手したら一千万に手が届く。その五倍となるといままで見たことのない額の金が転がり込んでくることになる。それを考えると思わず笑みが零れた。
――久しぶりに早い時間に家に帰った弓削は、このところの多忙を癒すようにゆっくりとウィスキーのグラスを傾けた。妻の拵えた酒のつまみで飲むのも久しぶりのこと。
弓削は琥珀色の液体が入ったグラスを手首だけで揺らした。グラスの中の氷が透明な音を打ち鳴らした。
部屋の隅で騒ぎ立てているテレビの音がいつになく新鮮なものに聞こえてくる。妻はと見ると、いつもの調子でキッチンに立って背中を向け、せわしげに夕食の準備をしている。
弓削はグラス片手に宝くじが当たったときの使い道について密かに考え事をしていた。
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