第35話
「――あんた何でここに連れて来られたかわかってるよね」
占い師は何かを探るかのようにゆっくりと口を開いた。
「――?」悪寒が襲った。
「わかんないのかい?」
占い師は言葉強くいった。
「そういえば、この間……」
弓削は恐怖に怯え、自然と消え入るような声になった。
「やっと思い出したのかい? これだけかかってやっと気がついたということは、あたしの忠告を上の空でしか聞いていなかったということだよね」
「いえ、けしてそのようなことはありません。先生に対しては、足を向けて寝れないほど感謝しています」
「聞いたふうなことをいうんじゃないよ。感謝してる人間がどうして口止めされてたことを――」
「すいません。つい、酔った拍子に口が滑ってしまって」
「あれほど口を酸っぱくしていったのに、馬鹿な男だ。残念だけど、だめだね。もう遅いんだ。取り返しがつかないところに来てしまった。あんたに友達の名前と住所を聞かなければならない。教えてくれるかい?」
「住所を教えるとどうなるんでしょう」
「可哀そうだが、これ以上他人に話されないようにするには別の世界に行ってもらうより他ないね」
「まさか、私をからかってるんじゃ……?」
「わざわざこんなとこまで連れて来て、冗談をいうほど暇じゃないよ」
「すいません、私がわるかったんです。勘弁してください、この通りです」
弓削は後ずさりをすると、両の手を畳について頭を下げた。
「もう遅いっていったろ」
占い師の右側の影がゆっくりと動き、弓削の前に白い紙と鉛筆を差し出し、「さあ、ここにその友達の名前と住所書きなさい」と、抑揚のない言葉でいった。
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