第23話

 占い師はくにちゃんから割り箸を受け取ると、この前と同じように合掌した掌の拇指にそれを挟んで瞑目した。この前より少し時間がかかっている。やがてゆっくりと目を開き、

「いち、さん、はち、きゅう」と、途切れ途切れに呟いた。

「1・3・8・9」

 弓削は小声で繰り返しながらさっそくその数字を手帳に書き込む。

「いつ買ったらいいんでしょう?」

 ボールペンを指に挟んだまま訊ねた。

「三日後だね」

「三日後の月曜に買えばいいんですね」

 弓削は念を押して訊いた。

「そう」

 占い師は神経を集中させて体力が消耗したのか、口から吐いて出た言葉にちからがなかった。

「わかりました。ありがとうございます」

 以来弓削はまったく占い師を信用している。

 その後、幸いといったら店にわるいが、ぱったりと客足が途絶え、くにちゃんを交えた三人は看板の時間が過ぎても尽きることなく飲みつづけた。

 いつもなら明日の仕事のことを考えてほどほどにすます弓削も、明日が土曜日で会社が休みだということと、占い師のお蔭でいい目をした恩返しもあって、とことん付合うことに決めていたので途中で腕時計を覗くようなことはしなかった。

 やっと占い師が帰る素振りを見せはじめると、腕を掴むようにしていった。

「先生、家まで送りますよ」

「いいよ、自分で帰れるよ。まだ酔っちゃいないから」

 そう強がりをいった占い師だが、ほとんど呂律が廻っていない。

「だめですって、大事な躰にもしものことがあったら大変ですから、僕、送らせてもらいます」


「あんた、きょうはいやに親切なんだね。ひょっとして、あたしを何とかしようと思ってんじゃないの」

「冗談いわないでくださいよ。もう勘弁してください」

 弓削も結構酔ってはいたが、占い師の手前があるので心底酔うということはなかなかできなかった。

 くにちゃんに勘定を払って店を出ると、辺りに人影はなく、ただ深夜の冷気が獲物を見つけた獣のように襲いかかった。思わず身震いをひとつする。

占い師を抱えるように通りに出ると、数少なくなったタクシーの空車を待ちつづけた。

 タクシーを捕まえるまでうわごとのように自分の身の危険について呟いていた占い師は、やっとのことで空車が通ると、弓削の気遣いを押しやってひとりでタクシーに乗って帰って行った。

 弓削にはそこまでして断わりつづける占い師の本心が読み取れなかった。

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