第21話

「やめとくれ。前にもいったけど、そんなつもりじゃないんだ。金が欲しかったら自分で買うっていっただろ、気持は嬉しいけどあたしはお酒をご馳走になればいいんだよ」

 占い師は、顔を顰めながら声を圧し殺すようにした。

「すいません。わかってはいましたけど自分の気持がどうしても……」

「いいから、いいから。この間は気の毒だったから、さすがのあたしも遠慮してしまったからね、きょうはとことん飲んでもいいんだろ?」

「ええ、もちろんです。きょうはおいしい酒にしましょう」

 ふたりは次から次へと酒とつまみを注文し、和やかな気分で話しに花を咲かせてゆく。

 最初にこの店に顔を出したときは店の雰囲気と勝手に戸惑い、自分のペースで飲むことのできなかった弓削は二度目のこの日、長年通いつづけた常連客のような余裕を見せた。

 少し酒が入っていい気持になったのと占い師の顔を見たことで、しばらく静まり返っていた胸の底から思い出したように、自分でも信じられないくらいふつふつと昂揚してきた。

「くにちゃん、好きなもん飲んでいいから」

 弓削は笑いながら掌を煽って勧める。

「そうお、それじゃあ冷酒をいただいていいかしら」

 くにちゃんは媚びるような眼差しを弓削に投げ返す。

「どうぞ、どうぞ、遠慮なく。こっちは熱燗の大きいのを二本ね」

 きょうの弓削は余裕を見せて、馴染みと見紛うほどの弾みだった。

 しばらくして他の三人の客が腰を上げ、勘定をすませて店を出たとき、

「あんた、いま、重大な悩みを抱えているみたいだね」

 と、占い師は弓削の顔を見てぼそりといった。

「はあ、まあ」

「そんな軽い悩みかい? あたしにはそうは見えないけどね」

「もう、先生にかかったら隠し事などできませんね。先生のおっしゃるとおり、ひとつ悩みを抱えています。まあ、自分で蒔いた種ではあるんですが……」

「女だね」

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