第19話
その夜、仕事が片付かなくて少し残業をした弓削は八時過ぎに会社を出た。そして例の露地に店を出している占い師のところに急いだ。
はじめてのときは霊気に包まれたようで、空恐ろしく思ったものだが、何回か足を搬んでいるうちにそんな畏怖もどこかに失せてしまっていた。
露地の入り口から店が時計屋のあたりを望むと、店先に置かれた行燈の灯が人影で微かに明滅しているのが見えた。どうやら客が来ているようだ。
弓削は店の近くまでゆっくりと歩いて行くと、案の定若い女性が三人ほど占い師の前に佇み、おそらく普段見せたことがないであろう、神妙な顔付きで占い師の話に耳を傾けていた。弓削は営業の邪魔をしないように少し離れた街灯の下で煙草に火を点けて時間を潰すことにした。
ところが、すぐに終わると思っていた若い娘たちの相談は延々とつづき、腕時計を覗くとすでに三十分が過ぎていた。来たときから較べると周りの灯りが心なしか落ちていた。
しばらくして背中の方から賑やかな話し声が聞こえたと思ったとき、その三人の若い女性が弓削の横を擦り抜けるようにして帰って行った。やっとすんだようだ。そう思って肩越しに振り返ると、ひと仕事終わらせた開放感からかゆったりと煙草を吹かす占い師の姿があった。弓削はしずしずと店の前まで行き、
「……今晩は」
と、少し気恥ずかしい面持ちで占い師に挨拶をした。
「ああ、あんたかい。今度はうまくいったようだね。ちゃんと顔に書いてあるよ」
「ありがとうございました。ついては……お礼を……」
「そうだね。きょうは忙しかったからもう店を閉めるよ。ちょっと待ってくれるかい」
「わかりました」
そのとき。露地の向こうから急ぎ足でやってきたひとりの中年の男が占い師に声をかけた。何気なくその男の顔を見たとき、弓削は得体の知れない
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