第12話
香織は部屋に入っても相変わらず寡黙なままで、バッグを気怠げにソファーに落とすと、すぐにブラウスの胸に手をかけてボタンを外しにかかる。澱みも躊躇もなく下着一枚の姿になる。
いつもとまったく同じ振る舞いで、変化というものがまったく見当たらない。
やはり弓削の前で下着を脱ぐのだけは避けた。弓削にしてみれば、香織の恥じらいながら下着を外す姿態をつぶさに眺めたいと思うのだが、なぜか彼女に欲望を突きつけることができなくて、これまで口にしたことは一度もなかった。
香織は脱衣場で素裸になると、浴室のスイッチを点けて逃げ込むようにして浴室に姿を消した。ピタピタとシャワーを使う音がソファーで煙草を吹かす弓削の耳朶に忍び寄ってくる。
弓削はガラスの灰皿に煙草を圧しつけると、香織のいる浴室のドアを開けた。ドアの開く音で一瞬振り返った香織が、別にいつものことなので愕く様子もなく、やや斜め上にシャワーヘッドを持ち上げ、煌めきながら落ちてくる水滴を胸元に受けていた。
弓削は躰を流すのにボディシャンプーを使うことがない。匂いが残るのがまずいというのが絶えず頭の中にあるからである。
香織は黙ってシャワーを弓削に手渡した。
香織が充分使ったあとなので湯の温度が安定している。一日の汗を流し落とす爽快さは何ともいわれぬ安堵感を呼び寄せた。
弓削はふたたびシャワーを香織に渡すと、背中からそっと腕を廻して抱きしめた。香織は相変わらず黙ったままで、湯で仄暖かくなった躰を預ける。掌で持ち上げるようにして乳房を鷲掴みにした。香織の手から離れたシャワーホースが水圧で蛇のようにくねった。両腕を後ろに廻して弓削の臀を抱えた。
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