第11話  3

 明くる日、外廻りに出たついでに宝くじ売り場に寄って、今度は間違いなく六種類の組み合わせを購入した。ところが、今度は連続数字の組み合わせではなく、順不同でもいい組み合わせを択んだ。配当金額は低くなるが、これなら占い師が口にした数字がはずれなければどんな並びで数字がきても間違いなく六種類すべてが当選することになるからだ。

 弓削は占い師を疑うことなくそれらの数字を二口ずつ、計二千四百円を払って宝くじを手にすると、すでに当たったような晴れやかな気持が足の搬びを伸びやかにした。

 ――その夜、弓削は総務課の井東香織いとうかおりと待ち合わせをしていた。

きょうという日をずいぶん前から約束していた。

 井東香織と関係ができてからすでに五年が過ぎようとしている。ふたりが接近した切っ掛けとなったのは特別なことではなかった。たまたま営業と総務が合同で忘年会を催したのが糸口だった。

 同じ会社の中にいてもまったく面識がないというケースが数少なくない。そんなふたりが宴席で隣り合わせになった偶然の悪戯がふたりの人生を横道に誘った。

 香織は弓削の巧妙な話術に惹かれた。自分には持ち合わせないものに気が行くのは、何も香織に限ったことではない。誰もが持ち合わせている羨望というものだった。

 そのとき香織は三十歳、弓削は脂の乗り切った四十三歳だった。

 しかし、いまになると、それらしい話は爪の先ほどもふたりの会話に顔を覗かせることがなく、ただ逢えばどこかのレストランで食事を摂り、惰性のようにラブホテルに足を向ける。このごろではホテルに入るときも以前のように周囲に目を配ることもなく、マンネリ化した行動がふたりを大胆かつしたたかに化していった。

 話題の乏しくなっている弓削ではあったが、宝くじの話だけは占い師との約束があって、いくら香織といえども口にするのを憚られた。そんなことをまったく知ることのない香織は、いままでと同じように彼女独特の表現で甘える。

 ホテルの部屋に入るまでほとんど口を利くことがなく、香織はただ黙って部屋の鍵をぶら下げて歩く弓削のあとに従っていた。

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