第9話

「だったら自分で買えば儲かるじゃないですか」

「そんなのはとっくの昔に卒業したわよ。お金が欲しいと思ったら買えばいいけど、あまり欲に奔ると商売のほうに影響するからね。それより他人が喜ぶ顔を見るだけであたしは満足なの。その見返りとしてこうしてここで一杯飲む、それがあたしの愉しみなの」

 占い師はグラスを呷ると、弓削の前に空になったグラスを差し出してビールの催促をする。

「僕にはそういった経験がないのでよくわからないですけど、そういうもんなんですかね」

 弓削は差し出されたグラスにビール瓶を傾けながら訊ねる。

「そうだよ。人間は欲をかくと碌なことがないからね」

 弓削は占い師に頼みたいことがあったが、その言葉を耳にしてしまうとなかなかいい出せなくなってしまった。

「あんた、あたしに何かいいたいことがあるんと違うかい? 遠慮せずにいってごらん」

落ち着かない弓削の様子を察知した占い師は弓削の左腕を小突くようにしていった。

「わかっちゃいました?」

 弓削は頭に手をやりながら作り笑いを見せる。

「わかるわよ、何年この仕事やってると思ってるの」

「じつは……昨日せっかくチャンスをいただいたにもかかわらずヘマをしちゃって……。何とかもう一度チャンスをいただけないでしょうか」

 弓削は額に浮き出た汗をおしぼりで拭った。

「まあ、そんなことだろうと察していたけどね。いいよ、教えてあげるよ」

 占い師の恬淡とした口振りに弓削はいささか拍子抜けをした。

「ただし、いっとくけど、これはあんたとあたしだけの間のことだから、決して誰にも話さないと約束できる?」

「それは、もちろんです」

「もしこのことをあんたが口外するようなことがあれば、世の中想像もつかない大変なことになるんだからね、いいわね?」

「わかってます。決して誰にも話すことはないですから、安心して下さい」 

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