第8話
四つ角をふたつばかり折れる。
そこには露地裏の小さな店がいくつも建ち並んでいた。一見するとどこにでも見かけるような景色ではあったが、辺りに漂う空気は、簡単には人を受け入れないような拒絶を孕んでいるように思えた。
占い師は一軒の居酒屋の前で立ち停まると、店の横にある隣りとの隙間に商売道具を隠すように納め、暖簾を分けて中に入った。
カウンターだけの六、七人がやっとの小ぢんまりとした店だった。どうやらこの店は五十半ばの小太りのおばさんがひとりで切り盛りしているらしい。
店の中に入ると、外の様子とは違って、まったく普通の居酒屋で、三人の客が静かに話しながら飲んでいる。場所のわりには客層はそれほどわるくない印象を受けた。
「くにちゃん、また道具をお願いね」
占い師は先ほどの商売道具をこの店に頼んで置かせてもらっているらしかった。
「はいはい。……きょうは何にします? ビール、それともお酒?」
「そうだね、まずはビールにしようか。いいよねビールで」
占い師は右隣りに坐った弓削の顔を見ながら半ば押しつけ気味に尋ねる。
「ええ、結構です」
弓削は借りてきた猫のようにおとなしかった。というより、占い師との約束があったから、きょうばかりはいわれるままにするより他なかった。
グラスにビールをつぎ交わして咽喉の奥に冷え切ったビールを流し込むと、
「あたしは、この店で、この場所がいちばん好きなんだよ。ここの席が空いてないと機嫌がわるいのよ。くにちゃんの顔が見えて、湯気の立ち昇るおでんの鍋があるここが好きなの」
占い師は嬉しそうな顔でいった。
「あ、そうなんですか。……ところで、何で見ず知らずのこの僕に数字を教えてくれたんです? どうしてもそれが知りたくて……」
「ああ、そのことね。これは誰にでも教えるってわけじゃないのよ。あたしが持ち備えた霊感からくるもので、特別にあたしが感じた人にだけそっと教えてあげるの。それは、自分の感覚を研ぎ澄ます訓練でもあるの。時々はずれることもあるけど、だいたいは当たるわね、自慢じゃないけど……」
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