第2話

「何か?」

 弓削は自然と低い声になった。

「だまされたと思って、3と7と8を買ってみな」

 女は初対面とは思えない口調でいう。

「……宝くじの数字のことなの?」

「そう。……もし明日の新聞を見てその数字が当たっていたら、このあたしに一杯ご馳走しておくれ、ただそれだけでいいよ。他には何もいらない。あたしはこの裏の露地で占いの店を出してるよ、すぐにわかるよ……じゃあ明日の晩を愉しみにしてるから」

 それだけいうと女は踵を返し、サンダルをアスファルトに叩きつけるようにして姿を消した。

 本当にこの繁華な場所の裏に占い師が露店で店を出すような場所があるのだろうかと思いながら、占い師の後ろ姿を追うように露地のほうを眺めた。

 弓削は女のいった「占い」という言葉がやけに心の片隅に残り、それこそ騙されたつもりで女が口にした三つの数字を適当に組み合わせ、五通りの羅列を宝くじ売り場に差し出し代金の千円を支払った。

 宝くじは以前に四つの数字を選択する籤を買ったことがあるが、そのとき択んだ数字は自分の携帯電話の番号や、車のナンバープレート、あるいは自分の好きな数字だった。しかし、物事は自分が思うほどたやすくはかどるものではなかった。決められた小遣いの中からの出費は長つづきすることはなく、それ以後は気が向いたときに買うくらいのものになっていた。久々の宝くじだった。

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