第6話 こじらせ盾使いは、お嫌いですか?

「それで、レオンの言ってた当てって誰なんだ?」


先日のクエスト後、俺はレオンに呼ばれて酒場に来ていた。


「えーと…あ、あれです。あそこの端の席の」


レオンの指差した先を見ると、長盾を背負って1人晩酌をしている男がいた。青い長髪に整った顔。室内なのにコートを着ており、どこかの主人公みたいだ。

半年間この酒場で働いていた俺だ。勿論知っている。


「ああ。孤高の盾使いぼっちシールダーか」


「…はい。同じハブられモノ同士仲良くしてます」


確か彼の名前は…アルフォンス。かっこいい名前だ。世の中にはホースケとかいうしょうもない名前の奴もいるらしいから、是非変わってあげてほしい。

職業は盾使いシールダー。盾で守り盾で殴る撲殺系タンクだ。

この手の職は普通パーティを組んで初めて真価を発揮するのだが、アルフォンスはソロで活動している。


「あいつは無理じゃないか?レオンもあいつが孤立してる理由知ってるだろ?」


こんな辺境の街に似合わない風貌のアルフォンス。「貴方は俺の主君ではない」が口癖で、今まで多くのパーティに誘われたが全て断っている。恐らく、彼がパーティを組むのは彼にとっての主君たりえる者に出会った時だけだろう。俺やレオンに、その資質があるとは思えない。


「ホースケさんなら、僕を動かしたようにアルフォンスさんもいけるんじゃないかなって」


「んー。ま、とりあえず当たって砕けてみるか。というか、俺の名前教えてなかったのによく知ってたな」


「ホースケさん。ここの酒場の常連の間では結構有名ですよ。新商品たくさん出してたので」


「なるほどね。んじゃ、行くか」


「はい」


ーーーーーーーーーーーーーーー



「あ、アルフォンス君。ちょっといいかな?」


「レオンか。どうした?」


「僕さ、ホースケさんとパーティ組んでるんだけど、アルフォンス君ももしよかったらどうかなって」


「断る」


即答かよ。


「まあ待てよ。一目見ただけで判断されても困る」


「貴方が私の主君たりえるとは思えんが」


うん。俺もそう思う。しかし、ここで立ち止まってはこいつを引き入れることができない。


「ほう。じゃあどうすれば俺はお前の主君になれるんだ?」


そう言うと、アルフォンスは目を見開いた。


「…そんな質問は初めてされたな」


「少しは俺に対する評価が上がったかね」


「見縊っていたことは謝ろう。しかし、貴方が主君になれるとは思わんな」


「その心は?」


「例えば、民を統べる王に何を求める?」


質問に質問で返すな。薄々気づいてたけどこいつ面倒くさい奴だな。


「…力と冷酷さ」


「ふん。やはり貴方とは分かり合えないようだな」


え?違うの?結構考えたんだけど。


「じゃあ、お前はどう思うんだ?」


「博愛と献身。それが最もの素質だ」


「理想論だろ。力がなきゃ誰も救えない。何も守れない」


「大事なのは姿勢だ。例えどんな苦境に陥っても民を憂い、身を粉にしようとする精神こそ、あるべき王の姿だ」 


少しイラッときた。日々モンスターと命のやり取りをしている冒険者がよくもまあ、そんな綺麗事を言えるもんだ。


「…お前とは気が合わないな」


「そのようだな。もう何処かへ行ってくれ。酒が不味くなる」


「ああ。ちなみにその酒、俺が発案したやつだとだけ言っとくぜ」


そう言い捨てて、俺はアルフォンスに背を向けた。


「え、ホースケさん?」


「行くぞレオン。あれは俺には無理だ」


「で、でも…それじゃあ、あの人はずっと1人に…」


「そうだな。でも、俺にはあいつの主君たる資格はないようだ」


「…僕、もう少し話してきます」


「好きにしろ。俺は俺でタンク候補を探してくる」


ーーーーーーーーーーーーーーー


レオンと別れて外に出ると、さっきまで熱くなっていた頭が冷えて来た。

こうも簡単に感情的になってしまうようでは、先が思いやられるぞ俺よ。


一呼吸し、《天界の戯れ》を開いた。


『フィリア。アルフォンスの将来性は?』


『はい。レオンさんと同じ三年後で見ると…これは凄いですね。世界に名を轟かせられるレベルですよ』


マジ?クソお宝じゃねぇか。でも入手難易度高すぎなんだよな。


『どうすればいいと思う?』


『頑固さんですからね。あなたの方から歩み寄るしかないかと』


『だよなぁ。あ、そうだ、アルフォンスの過去とかわからないのか?』


『わかりますけど…流石に私用で人の過去を除くのはちょっとルール的にアウトというか』


『まあ、能力値とは訳が違うか』


『そうですね。今回は私、何も役に立てないかと』


『わかった。まあ、ありがとな』


『はい。頑張ってください』



…さて、どうしたものか。ああいう輩に話術は通用しない。力で服従させるのも無理。レオンの説得も効かないだろう。うん。無理じゃん。


…………あ。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「どうしてもダメなの?」


「ああ。俺が盾を使うのは主君にのみだ」


「…勿体ないよ。せっかく強いのに」


ソロのアルフォンスは一人で狩りをして生計を建てており、その実力はこの辺りの冒険者なら誰でも知っている。


「この力は、主君唯1人の為に磨いている物だ。たとえレオンでもそれを貸すことはない」


「そうだな。勿体ないな」


「え、ホースケさん!?」


アルフォンスは俺を一瞥すると、露骨に嫌そうな顔を見せた。


「…また貴方か」


「ああ。ちと、お前に提案があってな」


「断る」


「まあ、そう邪険にするなよ。お前にとっても決して悪くない話だ」


「…一応聞こう」


「俺達と一緒に旅をして欲しい。勿論、お前の力は借りない」


俺の言葉を聞くと、アルフォンスは目を見開いた。


「…意味がわからないのだが」 


「お前がこんな辺境に留まってるのは、ここから出れないからだろう?ここから隣町まででも1日以上かかるからな。ソロだと危険すぎて行けない。そこで、俺達がお前の主君探しを手伝ってやるわけだ。んで、俺達はあわよくばお前の気が変わって、俺達を助けてくれるのに期待ってわけ」


そもそも前提が間違っていた。別に、こいつを同行させるだけなら俺かレオンがこいつの主君になる必要は無いんだ。


「割に合わない条件だな。俺は貴方達に力は貸さないぞ」


「好きにしてくれて構わない」


こいつの心は、長旅の間で解していけばいい。


「…わからないな。どうしてそこまでする?」


「それはレオンに聞いてくれ。きっとその方が納得する答えが聞けるだろうよ」


「……レオン」


「僕さ、ホースケさんに会うまではずっとひとりぼっちで生きていくんだと思ってた。その事に不満はなかった。けど、ホースケさんが手を引っ張ってくれた。僕を助けさせてほしいって、そう言ってくれた。僕の世界を、広げてくれた。だから、今度は僕が、君を助けたいんだ」


そう言ったレオンの瞳は、真っ直ぐに、アルフォンスに向いていた。


「そうか…」


「アルフォンス。あの気の弱いレオンがここまで言ったわけだが、もう一度聞くぞ。俺達と一緒に来てくれるか?」


「……わかった。俺も同行しよう。ただし、力は貸さないぞ」


「ああ。よろしくな」


「よろしくね!アルフォンス君!」


こうして、タンクのアルフォンスが仲間になった。


ーーーーーーーーーーーーーーー





「…思ったけど、お前の名前長いな。アルって呼んでいいか?」


「いいぞ。貴方はホースケ、だったか」


「ああ。そう呼んでくれ」


「僕も、アル君って呼ぶね!」


「ああ。ところでいつ旅に出るんだ?現状のこの3人では難しいと思うが」


「それなら当てがいる。明日、その人に会いに行ってくるよ」


「ホースケさん1人で行くんですか?」


「そっちの方が多分スムーズに進むからな。俺達が集まるのは明後日って事で」


「わかりました」





明日はついにあの人だ。流石に、今日みたいに面倒じゃないことを願いたい。

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ハッピーエンドは、お嫌いですか? 空気嫁 @Air2255

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