第5話 欠陥魔法使いは、お嫌いですか?
「STR、VITは平均を少し下回っていて、あとは平均的…あ、LUKが平均を大きく下回ってますね」
「はぁ。なんかいいところ無いんですか?」
俺は今、冒険者ギルドにてステータスを見せてもらっている。ギルドカードを発行する際にステータスを確認し、将来的なスタイルを大雑把に決めるらしいのだが、特にいいところが無くて意気消沈しているところだ。
「特にこれと言った固有スキルも今のところ発現していませんし、あ、INTが少し高いですよ!…とは言っても、MPがそこまで高くないですし魔法職も厳しいですね…」
「……まあ、細々とやっていきますよ。この悪運が怖いですけど」
仮に商人になんてなっていたら大赤字を叩き出していたかもしれない。
引き止めてくれたフィリアに感謝。
「が、頑張って下さい…」
こうして、俺の冒険者生活が始まった。
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「とりま仲間探しだなぁ」
クソみたいなステータスを叩き出してしまった以上、ソロで魔王様討伐とかやってられない。《絶対的ハッピーエンド》の発動条件も不明だし。
「確かこの時間帯なら…お、いたいた」
半年間酒場で働いていたので、この街のパーティやソロの冒険者の情報は粗方頭に入っている。このステータスでパーティに入るのは無理なので狙うはソロ冒険者。
「よ、元気か少年」
俺は、パンを頬張りながら周りをキョロキョロ見ている少年の前の席に腰掛けた。
体育で二人組組む時に余る系に見える少年の名はレオン。
他の冒険者曰く、実力はあるがアガリ症すぎて使えないらしい。
「え?あ、はい。元気です」
「俺、今日から冒険者になったんだけどさ、もしよかったらパーティ組まないか?」
そう言うと、レオンは一瞬目を光らせてこちらを向いてきたが、その後すぐに俯いた。
「お兄さん、酒場にいた人ですよね。僕の噂知っているでしょう?」
「もちろん。その上で誘ってるぜ」
「ど、どうして…」
ぶっちゃけると、こいつが一番チョロそうだったから。なんだが、さて、何かいい動機は無いだろうか。
「…実力があるのに、こんな所で燻らせておくのも勿体ない、と思ってな」
「僕を誘ってくれる人達は、皆そう言ってくれます。けれど、僕は皆に迷惑をかけてばかり…」
「一人で活動してる時は問題ないんだよな?」
「はい。でも、皆と組むと緊張して狙いが定まらなくて…」
レオンの職業は
レオンもそれに当てはまるが、彼の場合、緊張による照準のブレにより前衛に攻撃が当たってしまうことがパーティプレイの弊害となっている。
「一人の時にいけるなら、皆の時だって不可能じゃないはずだ。俺に、お前を強くさせる手助けをさせてくれないか?」
「で、でも、迷惑ですよ」
「迷惑かどうかは俺が決めることだ。嫌な言い方をすれば、俺はお前と一緒に冒険できないことの方が迷惑だよ」
俺は顔面に微笑を貼り付けてそう言った。戦う力に乏しい俺だからこそ、こう言った面でのスキルは磨いていかねばならない。この勧誘はその第一歩だ。
「…本当にいいんですか?」
「もちろん」
「絶対後悔しますよ」
「かもな。でも、それでいいんだ」
「…意味がわかりません」
「俺を、信じてほしい」
レオンは目を閉じてじっとしていたが、しばらくすると目を開けて、手を差し出してきた。
「わかりました。あなたを、信じます……。僕を、助けてください」
「ああ、俺に任せてくれ」
俺は、差し出された手を強く握った。
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「へえ、外はこんな感じになってるのか」
レオンを仲間に引き入れ、初のクエスト受注で初めて町の外に出た。
町の周りには草原が広がっており、草を刈ってできた道が指針となっている。
「ええと、今回のクエストはワイルド・ボア五頭の討伐、報酬は10000ハピネスだね」
ワイルド・ボアはイノシシで、突進攻撃の威力が高いが、他に攻撃手段がないので初心者向けのモンスターだと言える。体もここら一帯の雑魚モンスターの中では大きい方なので、魔法職には的当てのようにも使える。
「どうだ。行けそうか?」
俺は何頭かのワイルド・ボアを視界に入れつつ、レオンの調子を伺った
「し、正直、もう手が震えてて…」
「了解。それじゃあ、今から俺の言う通りに動いてくれ」
「は、はい」
「まず目を閉じて。それから、深呼吸して……よし。詠唱のポーズ…手を仰角20度、腕を右に60度。よし、詠唱始めていいぞ」
「…放つは火竜の吐息」
「その位置から順に、左に45度、120度に三発だ」
「フレイムッ!!」
レオンが叫ぶとその手から火が放射され、二発は直撃、一発は背肉を掠めた。
「グギャアア!!」
「あ、当たった!」
「喜んでる時間は無いぞ!次は詠唱後に突っ込んでゼロ距離からぶち込む!」
「は、はい!」
「グルァアア!!」
咆哮を上げながら突っ込んでくるワイルド・ボアを捉え、俺は剣を抜いて構えた。アルバイトで稼いだ金で整えた装備は鉄製の胸当てと町で一番高い剣だ。
もっとも、一番と言ってもあくまで辺境の町での話だ。この世界の中心にあるらしい王都にはこのレベルの剣は弱すぎて売ってないレベルだそうだ。悲しい。
「っぁああ!!」
レオンにタゲを向け突っ込むワイルド・ボアの横腹に剣を突き刺す…が、突進は止まらない。
「ぉああああまだかぁああ!!」
「いけます!離れて!」
レオンの叫びと共に剣から手を離す。枷がなくなったワイルド・ボアは一瞬前につんのめった。
「バーン!」
ワイルド・ボアの隙を突き、新しい魔法名を唱え右手を顔面に打ち込んだ瞬間、ワイルド・ボアが爆発した。
「や、やりました!」
「おお、てか、最後のなんだ?すげえ威力だったけど」
「バーンっていう爆撃魔法です。射程は超近距離なんですけど、威力は結構高くて」
「え、爆撃魔法って確か中級スキルじゃなかったか?…あ、火属性」
爆撃魔法は中級スキルで、解放するには火属性のスキルを中級に上げる必要がある。この町には中級レベルの冒険者は本来ならいないはずだが、レオンのように単属性だけ極めていると職としては初級でもスキルは中級なんてこともありうるのか。
「そうです。もっとも、爆撃魔法はこれしか使えなくて、前に出ることもなかったので」
「…やっぱりな」
「え、何がです?」
「いや、手ブレで攻撃が当たんないならさ、当たるとこまで近づけばいいだけだろ」
「……あ!」
先の戦いを反芻して、レオンは気付いた。
「今まで、前に出ようって言われなかったんだよな」
「…はい。自分でも思いもしませんでした」
この世界の定石では魔法使い系統の職は前に出ないことになっている。
加えて、レオンも、レオンと組んできた冒険者達も初級レベルの者達だ。
定石は重んじるだろう。しかし、定石は行き過ぎれば常識になる。
「…にしても、誰か思いつけよこんくらい…」
「でも、これで僕も戦えそうですね!」
「んー。でもこれタンク欲しくなってくるな」
「…タンク?」
この世界だと、タンクって通用しないのか。
「重装備の前衛って意味だよ。
「…あ、それなら当てが」
「おお、んじゃあ、とっととクエスト片付けてそいつを誘いに行くか」
「はい!」
レオンはこの戦いで大きく自信をつけたようで、2戦目からは俺が言った通り近距離重視の戦法により、ほとんど俺の補助なしでワイルド・ボアを倒せるようになっていた。普通に中堅
そんな調子で、日が暮れる前には、ギルドに報告が終わっていた。
「今日はありがとうございました!」
「こちらこそ。あとは実戦積んどけば大丈夫だから、これから頑張っていこうぜ」
「はい!それでは、また明日」
「ああ、お疲れさん」
俺はレオンと別れて、蔵へ帰った。
レオンが言っていたタンク。どんなやつか楽しみだ。
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『フィリア。ちょっといいか?』
『どうしました?』
《天界の戯れ》天使たるフィリアと転生者の俺がコミュニケーションを図れるグレーゾーンギリギリのシステムだ。
『俺の仲間のレオンってやつ、将来的にはどれくらい強くなるとか分かるか?』
『現在のパラメータから計算することはできますけど、人生の中で幾らでも変容してしまいますからあまり宛にはなりませんよ』
『それでも大丈夫だ。とりあえず、三年後くらいにはどうなってそうだ?』
『彼の魔法のコンプレックスを無視して考えれば、上級魔法職には余裕でつけます』
『そいつは心強いな。…ちなみに俺は?』
『なんとか中級職につけるかつけないかって所ですね』
『うへぇ。マジ俺クソの役にも立たないな』
『…そんなことはないかと。というか、貴方職に就く気あるんですか?』
ステータスを把握したが、結局どの職に就くべきか定まらなかった俺は【無職】扱いになっている。
『そこは考えがあるから大丈夫だ。ちなみに、そん時の俺のMPってどれくらいだ?』
『具体的な数値では表せませんが、まあ、中級魔法二発で倒れる位です』
『まあ、思ってたより酷いがいいか』
『…何を考えてるんですか?』
『まだ秘密だ。そもそも、この路線で行くかどうか決めるにはまだ材料不足だしな』
『私にまで秘密にするんですか?』
『そりゃ、実際に見て驚いて貰いたいからな』
『変な人ですね』
『ひっで。不貞寝してやる』
『おやすみなさい』
『……おやすみ』
俺は眠りについた。
…そういや、レオンに俺の名前教えてなかったな。ま、いいか。
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