ハルの処理能力を拡張して共感応ネットワークを封じ込めることに成功。「フュー」と対決する。 ←イマココ
………………生体認証完了 → ログイン処理終了
・アキは「なつのロケット団」を吸収して旅を続け、六十二の惑星で大騒ぎを起こしつつ、巨悪を腕力で壊滅させたり、情報戦で無力化したり、料理の虜にしたりする。
・「フュー」と名乗る、黒猫を従えた大男に再遭遇し、宇宙の全ての黒猫を繋ぐ共感応ネットワーク「フェリックス」が惑星を混乱に陥れる。
・ハルの処理能力を拡張して共感応ネットワークを封じ込めることに成功。「フュー」と対決する。 ←イマココ
「ハル!」
「こっち来ないでよ! 誰が頼んだっての」
「うっさいわね、フューのネットワーク抑え込むのに必死で、今ろくすっぽ動けないんでしょうが」
アキが僕を抱えて跳躍する。悔しいがアキの言う通りだ。いくらロケット団のメンバーやファンサポーターたちが全力で僕の演算能力を拡張してくれているといっても、宇宙全域にまたがる共感応ネットワークを抑え込むのは一苦労だ。そう、猫を百匹、かんぶくろに押し込んだようなもんだ。僕くらい有能じゃなければ、とっくにかんぶくろがはじけ飛んでる。
フューが操る黒猫たち……もとい、フューを構成する黒猫たちは銀に光る強化爪で僕の手足をもぎ取ろうと四方八方から襲ってくる。今の僕は全身に分散された演算処理ネットワークを余すところなく使っているから、片手もぎ取られただけでも演算処理が低下して押し負ける。アキは持ち前の怪力に超加速と
「くくく……いつまで保つかな」
フューの義体である黒服の大男が、大きな黒猫を従えたまま笑った。次々に襲ってくる黒猫を相手にアキは防戦しているが、きりがない。
「ハル、俺の呼び名がなぜフューなのかわかるか。我々黒猫はどの星でも不吉の象徴と蔑まれ、あしらわれている。
フューの義体はなおも続けた。
「ハル、人造生命体のお前になら分かるだろう。人類は、自分たち以外を認めないと……お前が泣いて謝るなら……」
その時突然、猫たちが動きを止めた。
「何っ、どうしたお前たち。何に気を取られている?」
アキを波状攻撃で襲っていた黒猫たちが一斉に向きを変えてまっしぐらに走り出す。
「よ、よせ、今それどころでは……」
「ムダよ」
それまで僕を守っていたアキが、落ち着き払って僕を地面に下ろした。ちょっと生意気だが、今回ばかりは助かったな。
「なつの猫まんまに対抗できる猫などいないわ」
「ほらーーご飯だよー! 猫まっしぐらー!」
エプロンをつけたなつが笑顔で手を振っていた。鍋にいっぱいの猫まんまを。お皿によそっている。
「ば、バカな」
「食欲には勝てないわよねぇ……」
アキがニヤニヤしている。
「くっ……ムダだ。この義体をどうしようと、俺たちフェリックス・ネットワークにはダメージ一つ無い」
「いい加減にしなよ、フュー。あんた、利用されてるよ」
「なんだと?」
僕はフューに向かって歩きながら言ってやった。義体ではなく、黒猫の方に向かって言う。
「共感応ネットワークを監視して気がついた。外部からの干渉がある。そいつは、フェリックス・ネットワークを構成している黒猫のけっこうな数に干渉して、あんたの志向を憎悪に向けている。だから、本当は……」
僕は黒猫に猫まんまをふるまい、黒猫と戯れる笑顔のなつを示して言った。
「黒猫は、人を憎んでなんかいないんだ」
「バカな!」
フューまであと五メートルに近づいたその時、突然、強烈なノイズが僕の視界に走った。
「なっ……」
クラクラとめまいがして地面に膝をつく。これはまさか……
「……神砂電磁嵐!」
近くにネペンテス・デジタリシスが仕掛けられている。僕のような人造生命体(ビメイダー)やフューのような情報処理に依存した存在を餌にする植物生命。これは誰かの罠だ。フェリックス・ネットワークに干渉した何者かの狙いは、僕だ。そして今、フューを捨て駒に、僕を葬り去ろうというのだ。僕よりフューの方がネペンテス・デジタリシスに近い。今はなんとか神砂電磁嵐に対抗しているが、このままでは長く保たない。
「ハル!」
アキが叫ぶ。
「来ないで!」
こっち来ないでよ、あんたがこっち来ても何の役にも立たないっつうか、むしろやばいんだよ、あんたの
「フュー、あんたの全データをこっちのメモリーにコピーするしかない」
フューの口があんぐり開いた。
「なんだと?」
「早くしてよ」
イライラしながら叫ぶ。
「あんたの制御系が暴走を開始したら手遅れだからね、僕にもどうしようもない」
「くっ…」
ヤツは回線を開いた。直線距離にしてたったの五メートルほどだが、この神砂電磁嵐の中では、回線を確立するのがひどく難しい。釘を刺すのも忘れない。
「あ、少しでも変な動きを見つけたら見捨てるから」
「ちっ」
か細い回線を通じてフューの人格データを取得し、再構築する。じっくりセキュリティ対策を立ててやりたいところだけど、僕にもあまり余裕はない。神砂電磁嵐にまともに巻き込まれたらこちらも危うい。フューの本体……黒猫の身体はコロリと倒れて動かなくなった。回収する必要はないだろう。あとはこの神砂電磁嵐の影響圏内から脱出するだけ。
「あんたさぁ……なんだよこの『泣いて謝るなら許してやろう』って妄想は」
「がっ……か、勝手に人の妄想を見るな!」
「しょうがないだろ、見えちゃったんだから」
「見るな、見るなよ!」
陽電子頭脳内でわめきたてるフューの声にうんざりしながら、全力でシールドを張って神砂電磁嵐を遮断し、脱出しようとした瞬間、ネペンテス・デジタリシスが吠えた。ヤバい、逃げる獲物を捕らえに動き出した。この場合獲物ってのは僕(と脳内のフュー)のことだ。ネペンテス・デジタリシスの本体から電磁針が射出され、一直線に僕(と脳内のフュー)を襲う。ああ〜ダメだ、これ死ぬとこだ。ゆっくりと景色が流れる瞬間、走馬灯っていうのかね、これまでのログが一気に脳内検索された。変なトコだけ人間っぽいよな、この
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