惑星ファルコン・ヘヴィーの最深部に眠っていた人造生命体)、ハルを目覚めさせ宇宙船「フォーチュナー」で銀河放浪の旅に出る ←イマココ

 ………………生体認証完了 → ログイン処理終了


 アキ・ファンサポーターズ・クラブへようこそ。初めてのログイン、ありがと。僕はアキの人造生命体ビメイダー、ハル・サイモン。ハルって呼んで。


 ライセンス文書の承諾ボタン押したんだから、ファンサポーターズ・クラブについてはわかってるはずだよね。でも経験上、あのライセンス文書ちゃんと読んだ人は一人もいないから、一応説明しておく。


 ファンサポーターズ・ドット・ネットは活躍するためのサポートを求めている人材「キャラクター」と、それをサポートしたい「ファンサポーター」をつなげるマッチングサービス。「キャラクター」にしてみれば自分が求めるサポートを公募し選定することができるし、誰かをサポートしたい人は「キャラクター」を選んで応援することができる。報酬は、まあキャラクターによって握手券からキャッシュまでピンキリだけど。


 高度情報化がどんなに進んでも、脳の増量がどんなにできたとしても、こんだけ広大な銀河の中で多様かつ特異なファンサポーターが持つ経験や知恵を情報システムが代替することは難しい。そういうわけで、僕らの旅の情報を開示する代わり、キミの知恵を借りたいわけ。


 今さらだけど、アキのサポーターにご応募ありがとう、あんたはアキをサポートする応募者四百二十八倍の倍率をくぐり抜けて選ばれた精鋭ってことになるね。あんたにはこれからアキの活躍をモニターする権限と、彼女のためにアドバイスや意見を送出する自由と、守秘の義務がある。送られたアドバイスは僕の方で情報処理して、他のファンサポーターの情報と総合し、活用させてもらう。僕の演算処理を使ってネットワークに情報を送っているわけだけれど、自動化されたAIが処理の大半をしているので、途絶することはほとんどないはず。もし途絶するとしたら、それは僕が死んだ時くらいかな。


 アキについては、公募情報に詳細載せておいたからわかってると思う。いたって普通の女子高生……ただし、銀河で一番重力の強いファルコン・ヘヴィーの生まれだからさぁ、普通って言っても普通じゃない。あそこ重力がハンパじゃないからね。あんたのいる惑星と比較すると四十五倍ある。だから、ファルコン・ヘヴィーを離れたら怪力って言ってもいいレベル。


 それが友達のカップケーキ食ってあまりの美味さに覚醒したっていうんだから、いったいどういうカップケーキだよそれ。その辺り、僕にツッコまれても困る。僕その頃まだアキのこと知らなかったからね。アキから聞いた話を総合すると、そんなとっちらかった話にしかならないんだよ。信じないんならその話をした時の録画見る?


「いや、それが! 本当なんだってば! なつの作るカップケーキがほんと〜〜〜に美味しくて! いつも最高なのよ」


「なつって誰?」


「知らないの?」


「僕が知るわけないだろ。あんたに叩き起こされるまで、こっちはファルコン・ヘヴィーの最深部でざっと四百二十万年、気持ちよく眠ってたんだよ」


むぎまつりなつ、って言えば私の親友よぉ。料理の腕前がすんごくて! お父さんも銀河のこっち側じゃ有名なすんごい料理人らしいんだ。でもって私が学校に遅刻して朝ご飯食べられなくてお腹が空いてたところになつがカップケーキをにっこり優しく差し出してくれてさあ、食べた食べた。十二個くらい食べたわよ。十二個目を食べた途端に目の前がチカチカっ!てなって! 頭の中でプッツン、て音がして! プッチン、だったかな。とにかくもうすごい勢いで血が巡ってあたし思わず叫んじゃったわ、うおおおおおおおおお」


 ……もういいだろ。アキの説明聞いても要領を得ない、ってことだけわかってもらえればいいよ。とにかく彼女は超人類「フォール」の因子を持ってて、それが何だか知らないケーキの十二個目で覚醒した。さまざまな能力が使用可能になったんだ。たとえば、脳内ホルモンの切り替えによる超加速認知。あらゆる波長の電磁波と音波を総合判断してほぼ透視に近い超望遠画像を脳内構成できる超視角。俗に「ファンタジスタ」と呼ばれる短期予知能力。他にもまだあるかもしれない。本人だってよくわかってないんだ。自分の指の使い方に気づいてない赤ん坊みたいなもんさ。


 アキが自分ではコントロールできない能力もある。感情の起伏に応じて発動するらしいのが今のところ二つ。周囲の人間を理不尽な不運に陥れる悪運放射ハードラック・デュレーションと、あらゆる電子機器のセンサーから見えなくなる検索ステルス。


 どっちも最悪だけど、後者は特にやっかいで、これ発動されるとあらゆる電子機器のセンサーにひっかからないんで、僕から彼女は見えなくなる。肉眼なら何の問題もないけど、僕みたいな人造生命体ビメイダーは、基本的には電子機器だからね。彼女が意図的に発動できるなら使いどころもあるんだけど、発動したい時にはできず、感情的になると勝手に発動するから始末に負えない。だいたい、僕とアキがケンカして僕がやり込められる結果になるのはこのせいだ。


 あ、そうそう、これまで彼女と僕が何をしたのか、いちいち伝えるのは面倒だし、三行プラグインを導入してみた。これ、あんたがログインするたびに前回のログアウト以降の僕らのアクションをまとめてくれるAIプログラムなんだよ。これまでをこのAIくんに三行でまとめてもらうと、つまりこういうこと。


 ・超重力惑星ファルコン・ヘヴィーの平凡な女子高生アキが親友にもらったカップケーキを食べる

 ・あまりの美味しさに超人類「フォール」として覚醒し、脳に隠されたすべての能力をアンロック

 ・惑星ファルコン・ヘヴィーの最深部に眠っていた人造生命体ビメイダー、ハルを目覚めさせ宇宙船「フォーチュナー」で銀河放浪の旅に出る ←イマココ


 まあまあだね。カップケーキの下りは意味がわかんないけど、これは元々の事実が意味わかんないからね。


 というわけだから、たまにログインして見に来てよ。アキは何も考えずに生きてきただけあってアホっぽいけど、ま、見てる分には面白いと思うんだ。それがこのファンサポーターズ・クラブを使ってみようと思った理由なんだけど。それになぜだか勢いはある。妙なカリスマも持ってる。もしかしたら脳の魅力野でも活性化してんのかもしんないな、なんせ超人類だからね。

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